ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート133 『サピエンス全史』批判2 狩猟・遊牧民族史観

 『サピエンス全史』と名付けているので、ユヴァル・ノア・ハラリ氏が人類誕生について最新の研究を踏まえた新たな提案をしているものと期待したのですが、古くさい教科書的な要約でした。

 それも、羊飼いであったユダヤ人のルーツを隠そうとした、世界史については偏った西欧中心主義の偏った歴史書でした。

 それも、羊飼いであったユダヤ人のルーツを隠そうとした、世界史については偏った西欧中心主義の偏った歴史書でした。

 数回に分けて批判し、私の「女・子ども主導進化説」「熱帯雨林進化説」「おしゃべり・共同子育て・採集進化説」「糖質・DHA(魚介)食進化説」「水中歩行採集(魚介類・両生類・爬虫類)進化説」「穴掘り棒・銛・調理具製作進化説」「焼芋・焼麦・焼米進化説」「家族・氏族・部族(分業)・地域共同体進化説」「母系制妻問夫招婚進化説」「冒険・探検好き族拡散説」「ホモ・イミューン(免疫力の高い人間)生き残り説」のまとめとしたいと思います。

1.「狩猟民族に学ぶべき」???

 『未来を読む』(大野和基インタビュー)では、ハラリ氏は「21世紀の人間は狩猟民族に学ぶべき」とし、「自分自身を環境に適応させる」「自分の身体や五感に対して、敏感であること」を提案していますが、ここには狩猟・遊牧民についての歴史の歪曲が見られます。

 干ばつや寒冷化で草地が消えて大型動物がいなくなると、狩猟民は移住します。放牧地の草がなくなると遊牧民は他の放牧民を攻めて草地を奪い、さらに農耕民族の国を侵略したことは、中国の「万里の長城」や元のユーラシア大陸征服が示しています。

   採集民や漁撈民、農耕民の歴史を無視・否定し、狩猟・戦争民族を頂点に置いた歴史観の持ち主であることをハラリ氏は隠していません。

 アーノルド・J・トインビー氏が人類の歴史を26の文明の興亡としてとらえ、『文明の生態史観』『女と文明』『宗教の比較文明学(編)』などで、「地域性」にこだわって多様な文明論を展開した梅棹忠夫氏とは異なり、ハラリ氏の人類史は狩猟・遊牧民であるユダヤ人をベースにして西欧のキリスト教白人を中心に置いた偏ったホモ・サピエンス論であり、それはユダヤ人のマルクス・エンゲルスと同じ偏った世界観に立っています。

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 羊飼いの遊牧民であったユダヤ民族が「乳と蜜の流れる場所」カナン(今のパレスチナを中心とした地域)やヒッタイトにおいて、神がアブラハムに下した命令として皆殺しの殺戮を行い、あるいは男は殺戮し女子どもを奴隷化した罪悪については旧約聖書がはっきりと誇らしげに書いています。

 同じユダヤ人でもジャレド・ダイアモンド博士は『昨日までの世界(下)』においてその事実をはっきりと書き、ユダヤ教徒キリスト教徒の宗教による戦争の正当化を非難しているのに対し、ハラリ氏はこのユダヤ民族の原罪を隠しており、歴史家としては失格といわざるをえません。

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 「ユダヤ人によるユダヤ人のためのサピエンス全史」を全人類の歴史に置き換えることは許されません。このような「嘘話歴史書」「エセ歴史書」をもてはやした池上彰氏など日本のマスコミの責任は大きいといわなければなりません。

 採集漁撈民・焼畑農耕民であり、母系制社会であったドラヴィダ系海人・山人族の縄文人の1万数千年の歴史とアフリカを出て日本列島にやってきた4万年の全歴史から、ハラリ氏の人類史を批判したいと思います。

 なお、私はユダヤ人差別・迫害やナチスユダヤ人虐殺を否定するような反ユダヤ主義の人種差別主義やユダヤ人陰謀説などには組せず、ハラリ氏の歴史観ユダヤ人擁護のために歪められ、グローバリズムの世界支配に理論的根拠を与えようとしていることに対してだけ批判していることを再度、明言しておきます。

 

2 「ホモ・イミューン(免疫力の高い人間)」の生き残り

 ハラリ氏は「第1章 唯一生き延びた人類像」の冒頭において、「不面目な秘密」として、ホモ・サピエンス(賢い人間)が他のネアンデルタール人など「少なくとも6つの異なるヒトの種」を絶滅させたかのように書き、「私たちしかいない現在が特異なのであり、ことによると、私たちが犯した罪の証(あかし)なのかも知れない」としています。

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 ユダヤ人やキリスト教徒が行ってきた殺戮をホモ・サピエンスがそもそも誕生の時から持っていた本能であり、「ユダヤ人の原罪」「キリスト教徒の悪行」を「ホモ・サピエンスの本能」としてすり替えているのです。

 ユダヤ人を神に選ばれた選民とし、カナンの住民を虐殺し、アフリカやアメリカ、オーストラリア大陸キリスト教徒たちが原住民を殺戮し、奴隷化した人類史を隠蔽し、それらの非人道的行為がそもそもの人類すべての本能であるかのように書いているのです。ジャレド・ダイアモンド博士とは決定的な違いです。

 では、ホモ・サピエンスネアンデルタール人を集団虐殺したような明白な証拠はあるのでしょうか? そのような考古学的証拠は皆無です。ホモ・サピエンスが世界に拡散した頃に、他のホモ属が絶滅したことが判っているだけです。

 世界には多くの種類のサルがおり、ホモ・サピエンスに近いゴリラ、オランウータン、チンパンジーボノボなどの多様な類人猿がいるにも関わらず、ホモ・サピエンスだけが他の他のヒト属(原人や旧人類)を殺し尽くしたという合理的な理由があるのでしょうか?

 他のヒト属をホモ・サピエンスが絶滅させたという説はハラリ氏だけでなく西欧中心史観の「肉食・闘争・戦争進歩史観」には根強く見られますが、合理的な推理と言えるでしょうか?

 多種多様なサルや類人猿をみていると、今西錦司氏の「棲み分け理論」があてはまり、彼らは可能かぎり競争を避けながら棲み分けを行い共生していることが明らかです。DNAや食物からみてほぼ同類のヒト属もまた共生していたと推理するのが合理的な推理です。アフリカなどでホモ・サピエンスがサルやゴリラやチンパンジーと共生し、絶滅させていないことをみても、ホモ・サピエンスだけが他のヒト属を残らず殺戮してしまったという特殊な理由は考えられません。

 また、人類のアフリカ・アジアなどの多様な民族・部族構成をみても明らかなことは、基本的にホモ・サピエンスは言語・容貌・習俗などが異なっても住み分けて共生しており、他の部族・民族を抹殺することなどやっていないのです。1例として台湾の少数民族の分布を図2に示しますが、時に対立して殺人を犯すことがあったとしても、それぞれ距離を置いて各民族は暮らしているのです。

 広域的に交易・交流を行っていた縄文人の1万数千年の歴史において集団殺戮や戦争の痕跡が見られないことをみても、食物が豊富であり母系制社会で女性を奪い合う必要がなければ、理由もなく他部族を殺し合うことなどなく、逆に交易・交流・婚姻によって相互に利益をえていたのです。

 では、ホモ・サピエンス以外の他のヒト属はなぜ絶滅したのでしょうか?

 1例として、人口100万人あたりの新型コロナウィルスによる国別の死者数を思い出していただきたいのですが、日本や韓国、インドなどは1/10~20と異常に少ないのです。もし感染予防対策を知らず、医療がない時代であればその差はもっと大きくなり、絶滅に追い込まれた人類種があった可能性は高くなります。

 細菌やウィルスなどによる絶滅こそまず考えるべきであり、野菜・穀類・魚介類などを食べ、突然変異で免疫力が高くなった「ホモ・イミューン(免疫力の高い人間)」の「ホモ・サピエンス」だけが生き残った可能性が高いと私は考えます。

 このハラリ氏の「闘争・殺戮・戦争人類本能説」は彼だけのものではなく、一神教選民思想の「西欧中心史観=白人中心史観」に根強く続いており、日本でも多くの拝外主義の翻訳研究者が追随しています。

 縄文ノート「70 縄文人のアフリカの2つのふるさと」「85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか「87 人類進化図の5つの間違い」において、私は2015年9月18日のナショナルジオグラフィックのニュースの『ヒトはなぜ人間に進化した? 12の仮説とその変遷』を紹介しました。

 それは「1.道具を作る」「2.殺し屋(常習的に殺りくをする攻撃性)」「3.食料を分かち合う」「4.裸で泳ぐ」「5.物を投げる」「6.狩る」「7.食べ物とセックスを取引する」「8.肉を(調理して)食べる」「9.炭水化物を(調理して)食べる」「10.二足歩行をする」「11.適応する」「12.団結し、征服する」というものですが、「2.殺し屋(常習的に殺りくをする攻撃性)」「12.団結し、征服する」を人類進化の仮説としています。

 さらに「1.道具を作る」「5.物を投げる」「6.狩る」「7.食べ物とセックスを取引する」「8.肉を(調理して)食べる」は男性が行う狩猟を想定したものであり、「2.殺し屋(常習的に殺りくをする攻撃性)」「12.団結し、征服する」と合わせると、「男性中心史観」の「狩猟・殺戮・征服史観」といえます。

 一方、私の知識は『日経サイエンス』『ナショナル ジオグラフィック』を読んでいるレベルですが、「3.食料を分かち合う」「11.適応する」だけでなく、「女同士が協力して子育てと食料採集を行った」「加熱糖質食が脳の発達を促した」などを人類進歩の重要なきっかけとして考えるメス主導進化説の「共同・共生文明」史観が登場してきています。「タカ派進歩史観」に対し「ハト派進歩史観」とでも言うべき新説が次々と生まれてきているのです。

 それは日本の文化人類学者によるサルやチンパンジーボノボ、ゴリラ研究やアフリカ原住民の生活・文化の分析なども大きな役割を果たしています。

 

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 ハラリ氏がそのような研究動向を知らないことは考えられず、まともな自信のある歴史学者なら「ハト派史観」と「タカ派史観」の両説を紹介し、その上で「狩猟・殺戮・征服史観」が正しいと根拠を示して主張すべきなのです。

 

3 「脳の進化不明説」のインチキ

 サルからヒトになった脳の進化について、ハラリ氏は「200万年もの年月に、いったい何が人類の巨大な脳の進化を推し進めたのか? 正直なところ、その答えはわからない」としています。この一番重要なテーマを避けているところに、ハラリ氏の真実を隠そうとしている「嘘話」はミエミエです。

 私の知識は『日経サイエンス』『ナショナル ジオグラフィック』を読み、NHKスペシャルやコズミックフロント、ヒューマニエンスなどの番組を見る程度ですが、その素人レベルでも、「肉食・生存競争・戦争進歩史観」と「糖質魚介食・共同進歩史観」が対立していることぐらい判ります。

 ハラリ氏は前者に立ちながら、後者を紹介し、批判することもなく、「その答えはわからない」ととぼけて、前者の主張を続けています。

 その理由ははっきりとしており、脳の巨大化が3~5歳までにおこることと、乳幼児の脳のDHA量の増加に相関関係があることかみて、脳の巨大化とシナプス密度(神経細胞の情報伝達機能)の高まりは乳幼児期におこり、それは熱帯雨林での母子の子育てコミュニティでの会話と熱帯雨林での根菜類や魚介の採集・漁撈・栽培活動によるものなのであり、男性主導のサバンナでの狩猟によるものではないのです。―縄文ノート「81 おっぱいからの森林農耕論」「85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか」「87 人類進化図の5つの間違い」「88 子ザルからのヒト進化説」参照

 糖質とDHA・たんぱく質をたっぷりととり、親子・メス同士・子ども同士の活発なおしゃべりと共同採集・漁撈活動による会話と知識伝達により、危険を避けながら成長した賢い子どもが生き残り、進化を遂げたのです。

 

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 □参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなのくに)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/