ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート11 「日本中央部土器(縄文)文化」の世界遺産登録をめざして

 2015年6月に「金精信仰と神使(しんし:みさき)文化を世界遺産に」を書き、その最後の部分の世界遺産登録について書き、7月には「大湯環状列石三内丸山遺跡が示す地母神信仰と霊(ひ)信仰―北海道・北東北の縄文遺跡群の世界遺産登録への提案」を書き、『季刊日本主義31号』に発表しました。
 この2つの小論を受け、9月に「群馬・新潟・富山・長野縄文文化世界遺産登録運動」を提案しましたが、本論では黒曜石分析や縄文農耕などを加え、対象地域を山梨・神奈川・東京へ広げ「日本中央部土器文化遺跡群」とし、「縄文文化」を世界初の「土器鍋食文化」としてとらえ、「土器(縄文)文化」の名称に変えて書き換えたものです。 雛元昌弘

1.「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録の取り組み

 「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録は2006(平成18)年に青森県から始められ、翌年の北海道・北東北知事サミットにおいて4道県の共同提案の合意がなされ、2008年に文化審議会文化財分科会において「北海道・北東北の縄文遺跡群」の暫定一覧表への記載が決定され、2009年にユネスコ世界遺産委員会事務局(ユネスコ世界遺産センター)において「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」として世界遺産暫定一覧表に記載されました。
 2013年に世界遺産登録推薦書協議案を文化庁へ提出し、2015(平成27)年 3月に世界遺産登録推薦書素案を文化庁へ提出しています。
縄文遺跡群は、北海道6遺跡、青森県9遺跡、岩手県1遺跡、秋田県2遺跡の計18遺跡です。
 提案自治体は北海道、青森県岩手県秋田県の4道県と、北海道3市2町、青森県4市2町、岩手県1町、秋田県2市の合計14市町です。

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2.「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録の特徴

 この「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、日本最大級の縄文集落跡である特別史跡三内丸山遺跡(青森県青森市)や大規模な記念物である特別史跡大湯環状列石(秋田県鹿角市)を中心に、北海道から北東北に残る数多くの縄文遺跡を網羅したもので、約1万年もの長きにわたって営まれた、高度に発達・成熟した世界史上稀有な先史時代の遺跡群として、次のように位置付けられています。

① 北海道・北東北の縄文遺跡群は、本格的な農耕と牧畜ではなく、狩猟・採集・漁労を生業の基盤に定住を達成し、成熟した縄文文化へと発展を遂げた先史文化の様相を伝承する無二の存在である。 

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 円筒土器文化や亀ヶ岡文化など、縄文文化を代表する文化圏が栄えた中心地域で、世界最古の一つである土器や漆器が出土し、また、精神文化に関わる土偶や大規模な環状列石が集中するなど、縄文文化の特徴を強く裏付けており、物質的、精神的に成熟した縄文文化の発展を示している。

② 北海道・北東北の縄文遺跡群は、約1万年間もの長期にわたり気候変動や環境変化に適応し持続可能な定住を実現した、自然と共生した人類と環境との関わり、土地利用の形態を示す顕著な見本である。 

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  縄文文化は、「最終氷期から後氷期にかけての急激な温暖化によって生まれた、世界的にも希な生物多様性に恵まれた生態系に適応し、約1万年間もの長期にわたって持続可能な定住を実現」「ブナを中心とする落葉広葉樹が広がる自然環境に、クリやクルミ、ウルシなどの有用植物で構成する縄文里山と呼ばれる人為的生態系を成立させて生業を維持」「集落遺跡は、住居、墓、貯蔵穴、祭祀空間、捨て場、道路などが計画的に配置されており、一定の社会的規制のもとに継続的に利用されており、人類と環境の交渉と、土地利用形態を代表する顕著な見本」とされています。

 ただ、私は次の点でその分析・評価には疑問を感じています。
① 現代の和食のルーツである世界初の健康で安定した「土器鍋食文化」に触れていないこと。
② 「イモ・雑穀農耕文明」の可能性について触れていないこと。
③ 南方系の海洋交易民であった「海人族文化」について触れていないこと。
④ 性器信仰など霊(ひ)信仰について触れていないこと。
⑤ 海人族の母系制社会であった可能性について触れていないこと。

3.「日本中央部土器文化」の特徴

 「北海道・北東北の縄文遺跡群」と比べて、「日本中央部(群馬・新潟・富山・長野・山梨・神奈川・東京)土器文化」には次のような特徴があり、新たに世界遺産登録を進めるべきと考えます。

(1) 世界遺産登録の「6 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある」の基準を満たす遺跡であること。

① 母系制社会を示す地母神信仰の遺跡・遺物と宗教行事が残っている(性器信仰、片品村の赤飯祭り、女体山・男体山・金精山信仰、神使の猿追い祭り、女性土偶、黒曜石・ヒスイ妻問交易圏など)。
② 全ての死者を神として祀る多神教の、再生と子孫繁栄を願う霊(ひ=祖先霊)信仰の宗教行事が残っている(片品村の赤飯祭り、金精信仰、神使の猿追い祭りなど)。
③ 豊かな山海の食料確保(雑穀・イモの縄文農耕の可能性あり)の健康長寿の土器鍋食による安定した社会を背景に、世界最高の芸術的な装飾土器など多様なデザインの土器が数多く出土している(新潟県の火炎土器、浅間山麓のメガネ状突起の焼町土器など)。
④ 高度に洗練されたデザインの土製耳飾りや女性像などの造形文化を残している(榛東村の耳飾り館、女性土偶など)。

(2) 世界遺産登録の「3 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。」の基準を満たす遺跡であること。

① 文明発展史に世界初の「石器―土器―金属器文明」の時代区分を提案する、「土器鍋料理の穀実・魚貝食文明」の痕跡を残す遺跡である(各地の縄文式尖底土器や貝塚など)。
② ロシア沿海地方朝鮮半島・沖縄にまで広がる広域的な「黒曜石交易」の海洋交易民文明が成立していたことを示す遺跡・遺物群である(日本最大の黒曜石鉱山の長野県鷹山遺跡など)
③ 世界最古の全国に広がる「妻問夫招婚交易文化圏」(貝とヒスイ文明圏)の存在を示す糸魚川ヒスイ原産・加工地がある。

4.「日本中央部土器文化」の世界遺産登録運動の推進

 この「日本中央部(群馬・新潟・富山・長野・山梨・神奈川・東京)土器文化」の世界登録運動は、「土器鍋を使った穀実・魚貝食文明」「航海交易民文明」「母系性社会」「地母神信仰」「祖先霊信仰」「高度な芸術文化」が1万年の土器(縄文)時代にあり、これからの世界の文明・文化のあり方に大きなヒントを与える取り組みです。
 そして、「男性による武力征服史観」「肉食(マンモスハンター)史観」「石器・金属器の武器文明史観」「農耕・牧畜明文明史観」「一神教史観」に対し、「妻問夫招婚と交易による共立国史観」「穀実芋・魚介の土器鍋食文化史観」「石器・土器・鉄器の生活・生産手段史観」「海洋交易民史観」「死ねば誰もが神になる八百万神の霊(ひ)信仰史観」を提起し、世界の文化・文明化観に変更を迫るものとなります。
 これまで世界では「石器時代金属器時代」の文明区分が行われていたのに対し、わが国では「石器時代縄文時代弥生時代古墳時代」というガラパゴス的時代区分が使われてきましたが、「土器鍋を使って煮炊きする穀実芋・魚介食文明」である土器(縄文)社会・文化が1万年にわたって安定的に存在したことから、新たに「石器―土器―金属器」という文明区分を世界に提案する世界遺産登録とします。和食のルーツは土器(縄文)時代の豊かな健康長寿の土器鍋食にあります。


1万5~6千年前のオコゲの付いた大平山元1遺跡(青森県外ヶ浜町)の世界最古の土器
名古屋大学宇宙地球環境研究所年代測定研究部HPより)

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 1万年以上も続いた母系制社会文明が存在したことと、現代に続く性器信仰・地母神信仰・祖先霊信仰の宗教文化を世界にアピールします。絶対神による戦争・殺人を正当化する宗教戦争に突き進む男系社会の一神教文化に対し、妻問夫招婚の母系制社会の多神教文化のもとで平和で豊かであった土器(縄文)時代の霊(ひ)継に基本的価値を置いた文化・文明の存在を世界に問います。
 そして「装飾土器・土偶」「ヒスイ文化」など、縄文文化の芸術性の高さと健康長寿の和食の歴史を世界にアピールし、「片品・赤城・榛東―津南・長岡―糸魚川―浅間・八ケ岳縄文文化国際観光ルート」などの形成を進め、バラバラであった縄文文化観光のネットワークの形成を図り、国際観光を推進すべきと考えます。