ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート113 道具からの縄文文化・文明論

 これまで私は「石器・土器・土器・古墳」時代区分を批判し、土器鍋文化から「石器・土器・鉄器」時代区分を提起する一方で、別に再生可能な森林焼畑農耕文明論などを提案してきましたが、ここで両者を統合し、「木石器・土器・鉄器」時代区分に変更するとともに、縄文文化・文明をどう英訳するかについても問題提起したいと思います。

 私など木の工作が大好きで、『モノ・マガジン』などの愛読者の道具マニアにとっては、木の道具論を大前提としない道具時代区分は考えられません。そして、縄文文化・文明をもとに、ギリシア・ローマ軍事・侵略・奴隷制文明の鉄器武器と城壁都市を基準とした文明規定は見直す必要があると考えます。

 

1.道具論について

 今回、「縄文2021―東京に生きた縄文人―」展を見て、道具について次のような感想を書きました。―「縄文ノート112 『縄文2021―東京に生きた縄文人―』から」参照

 

7 「マメマメ縄文農耕」説

② しかしながら、展示されていた石器農器具(鋤など)や石器穀類収穫器、穀物食・イモ食のための石すり鉢・石臼などの展示全体を通して「縄文農耕」の主張はなされていませんでした。

8 「土器鍋」隠しの「深鉢型土器」表示と「土器底のおこげ隠し」

① 展示では「土器の機能と美の変化」のタイトルで「土器の機能は主に『煮る』『貯める』『盛る』である」としながら、最初に挙げた『煮る』土器を「深鉢型土器」などとして、「土器鍋=土鍋」としていません。「鉢」は「植木鉢」や「皿鉢料理」の「皿鉢(皿と鉢の中間の深い皿)」のように『盛る』土器であり、「煮る」土器ではありません。

10 「木の暮らしの達人」の縄文人

③ 石斧と石錐(せきすい:きり)、石匙(せっぴ:ナイフ又は削り器)は展示されていましたが、手斧 (ちょうな)、槍鉋 (やりがんな)、鑿(のみ)、小刀に相当する石器は特定されておらず、これでは丸木舟やお椀、櫛、竹細工などの加工はできません。

 これまで狩猟用の槍の穂先や農耕用の鋤先などに分類されてきた石器具の中に「木工用石器」が紛れているのではないか、と考えます。

13 「大森貝塚」を取り上げながら「向ヶ岡貝塚」の無視・隠蔽

④ なお私は「石器―土器―土器―古墳」時代という「石土ガラパゴス歴史区分」は歴史家に多い劣等民族史観であり、「石器―土器(土器鍋)―鉄器」時代区分にすべきと考えています。

 

2.森林文明論と木の文明論の統一

 これまで森林文明論については、次のように再生可能な焼畑農耕文明として論じてきましたが、木の道具文明論との整理が必要と考えています。

 

⑴ 縄文ノート23 縄文社会研究会「2020八ヶ岳合宿」報告 

 現代の和食に繋がる「土器鍋食」の解明は不十分であり、ドングリの「縄文クッキー」をあたかも主食であったかのように考えるのもまた「西洋パン文明至上主義」の発想と思わずにはおれません。その一方では、「石・土器・土器・墓」のガラパゴス的時代区分の「石土文明史観」に陥り、スサノオ大国主一族の鉄器水利水田稲作の建国史や世界最高の巨木建築を無視し、わが国独自の縄文農耕による土器鍋食文明や森林文明の解明を放棄しています。

⑵ 縄文ノート26 縄文農耕についての補足

 「森林文明」を壊滅させた家畜飼育を伴う「大規模灌漑大河文明」に対し、持続的発展可能な「森林・焼畑農業文明」「水田農業文明」や、領地・国土争奪戦争にあけくれることのない「海洋交易文明」など、新たな文明論の検討が求められます。

⑶ 縄文ノート81 おっぱいからの森林農耕論

 梅原・安田氏の「森の文明」論については、「縄文の『森の文明』に対し、長江文明を携えた弥生人による『稲作漁撈文明』という旧来の2重構造論であり、『イモ豆栗6穀』の縄文農耕やバランスの取れた豊かな土器鍋食文化とその延長上にある鉄器水利水田稲作へと連続するスサノオ大国主建国を認めない外発的発展史観・征服史観の枠組みから抜け出せていないのはちょっと残念です」(縄文ノート48 縄文からの『日本列島文明論』)といささかわかりにくいコメントしましたが、「森の文明」を「採取漁撈狩猟文明」とみるのか、「縄文農耕」(照葉樹林文明の焼畑農耕)として位置づけるのか、どちらか整理しておく必要がでてきました。・・・

 これまで「焼畑農耕」は過去の原始的な農耕として論じられてきましたが、再生不可能な工場生産型農業が化石水の枯渇から行き詰まりを見せている現在、水資源と生態環境について再生可能な「森林農業」の可能性を論じるべき時と考えます。

 日本は鳥取大学の乾燥地研究センターが1949年より先進的に砂漠緑化・砂漠農業などに取り組んできており、高吸水性樹脂を使った砂漠緑化や点滴灌漑農業が提案され、世界の中で重要な役割を果たしてきましたが、水循環の基本となる世界の森林の保全・再生に向け、縄文から続く豊かな「森林文明」の提案が今こそ重要と考えます。

⑷ 縄文ノート110 9万年前の骨製銛からの魚介食文明論

 発掘された物を分析している考古学においては、残存する無機物の「石・土器研究」になるのは仕方ないとも言えますが、「発掘されなかったものはなかった」としてしまうと科学とは言えなくなります。・・・その同じような例が「森林文明」の提案で、異分野の哲学者の梅原猛氏と地理学者・環境考古学者の安田喜憲氏によって提起されていますが、「狩猟・戦争が人類を進化させた」としてきた軍国主義的な西洋中心文明の考古学者には森や木の文明などに何の関心もなく、形の残る「石器・金属器武器文明」しか眼中にないようです。現存する世界最古の木造建築・法隆寺を擁しながら、世界に先駆けて「森と木の文明」の研究を進めていないのは実に残念です。・・・

 狩猟・殺人用武器としての石器の分析ではなく、耕作・採集・調理・縫製・なめし・塗装・楽器・祭祀などのための石器・木器・竹器・貝器・骨器などの総合的・全体的な加工・製造を含めた総合的・全体的な文化・文明論への転換が必要と考えます。

 

3.木・竹・骨・石・土・鉄素材からの道具の整理

 すでに木器や石器、土器などの道具について個別に見てきましたが、採集漁撈狩猟・農業・加工や衣食住などに使う道具全体について、用材を整理すると図1のようになります。

 この全体を俯瞰すると、人が生きていくのに必要な道具は木石器時代(竹器・骨器を含む)にすでにワンセットそろっており、土器鍋という新たな発明は、生では食べられないイモや穀類などのデンプン質を土器鍋で加水・過熱して糊化(αデンプン化)し、唾液の消化酵素(ジャスターゼ)で糖化して美味しく食べられるようにした大発明なのです。小麦粉を水で練って窯や壺窯(タンドール)などで焼いてパンにして食べる方法と合わせて食料革命と農業革命を持たらし、鉄器は道具素材を置き換え、より強度と耐久性、形状の多様性を持たせた材料革命です。

 

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4 道具からの文明区分

 以上のような道具からみた文明区分でいえば、「木石器時代―土器時代―鉄器時代(青銅器を含む)」の3区分にすべきと考えます。

 中でも木器は人類誕生の直立歩行と手の機能向上とともに利用が始まり、骨器・石器・鉄器と組み合わせた「複合素材道具」として利用されるようになり、それはアフリカで始まりました。

 鉄器は「素材生産革命」という新たな段階を生み出し、農業土木や生産活動、建築・土木・加工作業などを効率化するとともに、武器の性能を高めて軍事・侵略国の誕生を助けますが、「戦争と城壁都市」を基準として「文明=civilization」とし、それ以前を「未開=uncivilized」「野蛮=savage」とする西欧中心史観の定義には反対です。「戦争・侵略・奴隷化」こそもっとも「野蛮、savage」であり、「非文化時代」と考えるからです。

 私は「木石器時代(treestone・age)―土器時代(earthenware・age)―鉄器時代(iron・age)」に合わせて「木石器文化(treestone・culture)―土器文化(earthenware・culture)―鉄器文化(iron・culture)」とするか、縄文文化・文明を基準として、理想的には「civilization、culture」に変わる「文化・文明」を統合した、命=霊(ひ)を基準とした言葉を作り出すべきと考えます。

 私は外国語は苦手なので、どなたか取り組んでいただけるとありがたいのですが。

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/