ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート49(Ⅵ-10) 「日本中央縄文文明」の世界遺産登録をめざして

 2020年3月の「縄文ノート11 『日本中央縄文文明』の世界遺産登録をめざして」に、「3.縄文文化から縄文文明(産業・生活・文化・宗教)へ」「4.『日本中央縄文文明』は世界遺産登録基準を満たしている ⑴ 人間の創造的才能を表す傑作であること」「5.『日本中央縄文文明』の世界遺産登録運動の意義」を追加し、写真・図表の豊富化しました。

 「石器-土器-鉄器」の時代区分の提案に合わせて「土器文化・文明」とするか「縄文文化・文明」とするか、「縄文文化」とするか「縄文文明」とするか、悩んでいる最中でしたが、歴史・考古学世界のリングサイドの素人の気楽さ、プランナー・コンサル感覚で思い切って踏み出してみました。「仮説検証型」の工学では、「仮説命」「仮説がなくちゃあ始まらない」みたいなところがあり、それが正しいか誤っているかは検証すればいいというところがあります。

 思い切って飛びだして調べてみましたが、今のところ「縄文文明説」は撤回する必要はないと考えています。

 「日本中央縄文文明」の世界遺産登録の可能性や、「縄文文化」か「縄文文明」かなど、大いに議論いただきたいところです。世界遺産登録申請には4県の知事と関係市町村長、国の合意が必要ですが、遺跡のある地元で誰か一人、本気になる人はいないでしょうか?                                                                                     210130    雛元昌弘

 

※目次は「縄文ノート60 2020八ヶ岳合宿関係資料・目次」を参照ください。

https://hinafkin.hatenablog.com/entry/2020/12/03/201016?_ga=2.86761115.2013847997.1613696359-244172274.1573982388

  

     Ⅵ-10 「日本中央縄文文明」の世界遺産登録をめざして

               150923→200307→0830→0912→210130 雛元昌弘

 2015年6月の「金精信仰と神使(しんし:みさき)文化を世界遺産に」のレジュメが発端で、7月には「大湯環状列石三内丸山遺跡が示す地母神信仰と霊(ひ)信仰―北海道・北東北の縄文遺跡群の世界遺産登録への提案」を『季刊日本主義31号』に発表しました。さらに、この2つの小論を受け、9月には「群馬・新潟・長野縄文文化世界遺産登録運動」を提案しました。

 本論ではイモ豆栗6穀縄文農耕論、土器鍋食文化論、鳥獣害対策の黒曜石産業革命論、共同体社会文明論、女神論、巨木楼観神殿論などを加え「日本中央縄文文明遺跡群(長野・新潟・群馬・山梨)の世界遺産登録」に向けて書き換えたものです。

 

1.「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録の取り組み

 「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録は2006(平成18)年に青森県から始められ、翌年の北海道・北東北知事サミットにおいて4道県の共同提案の合意がなされ、2008年に文化審議会文化財分科会において「北海道・北東北の縄文遺跡群」の暫定一覧表への記載が決定され、2009年にユネスコ世界遺産委員会事務局(ユネスコ世界遺産センター)において「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」として世界遺産暫定一覧表に記載され、2013年に世界遺産登録推薦書協議案を文化庁へ提出し、2015年 3月に世界遺産登録推薦書素案を文化庁へ提出、2019年12月にユネスコへの推薦が正式に決定しています。

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 縄文遺跡群は、北海道6遺跡、青森県9遺跡、岩手県1遺跡、秋田県2遺跡の計18遺跡です。

 提案自治体は北海道、青森県岩手県秋田県の4道県と、北海道3市2町、青森県4市2町、岩手県1町、秋田県2市の合計14市町です。

 

2.「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録の特徴

この「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、日本最大級の縄文集落跡である特別史跡三内丸山遺跡(青森県青森市)や大規模な記念物である特別史跡大湯環状列石(秋田県鹿角市)を中心に、北海道から北東北に残る数多くの縄文遺跡を網羅したもので、約1万年もの長きにわたって営まれた、高度に発達・成熟した世界史上稀有な先史時代の遺跡群として、次のように位置付けられています。アンダーラインは筆者

 

① 北海道・北東北の縄文遺跡群は、本格的な農耕と牧畜ではなく、狩猟・採集・漁労を生業の基盤に定住を達成し、成熟した縄文文化へと発展を遂げた先史文化の様相を伝承する無二の存在である。

 

評価基準(ⅲ)

現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。 

 

  円筒土器文化や亀ヶ岡文化など、縄文文化を代表する文化圏が栄えた中心地域で、世界最古の一つである土器や漆器が出土し、また、精神文化に関わる土偶や大規模な環状列石が集中するなど、縄文文化の特徴を強く裏付けており、物質的、精神的に成熟した縄文文化の発展を示している。

② 北海道・北東北の縄文遺跡群は、約1万年間もの長期にわたり気候変動や環境変化に適応し持続可能な定住を実現した、自然と共生した人類と環境との関わり、土地利用の形態を示す顕著な見本である。

 

評価基準(ⅴ)

あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)。 

 

縄文文化は、「最終氷期から後氷期にかけての急激な温暖化によって生まれた、世界的にも希な生物多様性に恵まれた生態系に適応し、1万年間もの長期にわたって持続可能な定住を実現」「ブナを中心とする落葉広葉樹が広がる自然環境に、クリやクルミ、ウルシなどの有用植物で構成する縄文里山と呼ばれる人為的生態系を成立させて生業を維持」「集落遺跡は、住居、墓、貯蔵穴、祭祀空間、捨て場、道路などが計画的に配置されており、一定の社会的規制のもとに継続的に利用されており、人類と環境の交渉と、土地利用形態を代表する顕著な見本」とされています。

 

3.縄文文化から縄文文明(産業・生活・文化・宗教)へ

 「北海道・北東北の縄文遺跡群」の取組は先駆的であるものの、残念ながら縄文文明(産業・生活・文化・宗教)の全体像を明らかにするに至っていません。現代の祭りや生活文化に繋がる「共同体社会文化」への連続性を強調し、「日本中央縄文文明」の世界遺産登録を目指す必要があると考えます。イギリスのストーンサークル文明や前期エーゲ海文明、古マヤ・アンデスの祭祀文明などとともに、「古代共同体文明」として共同歩調をとることが求められます。

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① 大河のほとりの沖積平野での大規模灌漑農耕による「4大世界文明」以前の世界各地に共通して見られた「共同体社会文明」を明らかにする。

② 海人(あま)族の「海洋交易民文明」「焼畑農耕文明」「黒曜石文明」「巨木文明」を明らかにする。

③ 神名火山(かんなびやま:神那霊山)・神籬(ひもろぎ:霊洩木)信仰、性器信仰、御柱祭、蛇・龍蛇・龍神信仰などから「海神・水神・地神・山神・天神信仰の霊継(ひつぎ:DNAのリレー)宗教」を明らかにし、ユネスコ無形文化遺産に登録されたお山信仰の「山・鉾・屋台行事」との連携を図る。

④ 女神像・妊娠土偶・人面土器・ストーンサークルなどから「母系制共同体社会」を歴史的に位置付ける。

⑤ 「高度で独創的な縄文芸術」について明らかにする。

⑥ 黒曜石産業や塩の道と関連付けながら「縄文焼畑農耕(イモ豆栗6穀)」を明らかにする。

⑦ ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」のルーツである健康で豊かな、安定した「土器鍋による煮炊蒸食文化」を明らかにする。

⑧ 世界遺産(宗教)の「厳島神社」「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」との関係を整理する。

⑨ 「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録運動や他地域の縄文遺産との連携を図る。

 

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4.「日本中央縄文文明」は世界遺産登録基準を満たしている

「北海道・北東北の縄文遺跡群」と比べて、「日本中央縄文遺跡群(長野・新潟・群馬・山梨)」には次のような特徴があり、新たに世界遺産登録を進めるべきと考えます。

⑴ 人間の創造的才能を表す傑作であること。

「日本中央縄文遺跡群(長野・新潟・群馬・山梨)」の立体装飾土器や女性神像、土偶、耳飾りなどは、「縄文時代に何人ものピカソがいた」と称賛された優れた芸術家の作品群であり、どれ1つ同じデザインのない優れた独創性を示し、岡本太郎氏をはじめ多くの芸術家に影響を与えています。

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⑶ 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)であること

 「大規模灌漑農耕の4大文明」に対し、「イモ豆栗6穀栽培の焼畑農耕文明」が成立していたことを各地の石器農具と土器鍋料理は示しており、現時点では世界初の「土器鍋による死者の霊(ひ)=神との共食文化」の成立が見られます。

 この縄文農業の成立には鳥獣害対策が不可欠であり、黒曜石の鏃などの広域生産分業体制が成立し、海洋交易民であった縄文人は活発な交易を行い、「黒曜石交易圏」と「妻問夫招婚交易文化圏」を作り上げました。

 「共同体社会文明」の共同祭祀として、巨木楼観神殿、環状列石、円形石組・石棒などが製作され、お山信仰、御柱祭りや猿追い祭り、鳥追い祭り、金精祭りとして現代に続いています。 

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⑸ ある文化(または複数の文化)を特徴づける伝統的居住形態、陸上・海上の土地利用を代表する顕著な見本、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本 (特にその存続が危ぶまれているもの)。

 石器農具と鳥獣害対策の大規模黒曜石鏃生産・流通や落とし穴猟、縄文土器鍋のおこげは、森林の富栄養分を活かした持続的発展可能な焼畑農耕の土地利用形態の成立を示しています。それは長野県栄村秋山郷焼畑農耕に引き継がれ、山梨県早川町奈良田でも1955年まで引き継がれており、沖積平野での世界四大文明の大規模利水・治水農耕とは異なる世界各地の農業文化・文明の顕著な見本です。

 また大規模な環状列石は、神名火山(神那霊山)信仰の共同体祭祀の共同墓地を示しています。

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⑹ 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある」の基準を満たす遺跡であること。

  女神像や土偶、乳幼児の埋甕、出産型土器、石棒・円形石組、男根を女体山に奉げる金精信仰などは、母系制社会の地母神信仰を示しています。また、茅野市蓼科山の「ビジン(霊神=霊人)信仰、原村阿久遺跡の環状列石の中心に置かれた石柱から蓼科山を向いた石列、諏訪大社御柱祭片品村の神使の猿追い祭り、安曇野の「ホンガラ」の鳥追い祭りなどは、死者の霊(ひ)が神名火山(神那霊山)から天に昇り、山上の磐座(いわくら)や巨木に降りてくるという山神信仰、山上天神信仰を現在に伝えています。、

 これらは共同体社会の祖先霊信仰を現在に伝える顕著な普遍的価値を有しています。 

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5.「日本中央縄文文明」の世界遺産登録運動の意義

① この「日本中央縄文遺跡群(長野・新潟・群馬・山梨)」の世界遺産登録運動は、「縄文焼畑農耕(イモ豆栗6穀)」「土器鍋による煮炊き蒸し食文化」「母系制社会」「海神・水神・地神・天神信仰の霊(ひ)継ぎ宗教」「神名火山(神那霊山)・神籬(霊洩木)・磐座信仰」「性器信仰」「高度で独創的な縄文芸術」などから、「1万年の縄文共同体社会文明」を明らかにする取り組みです。

② それは4大古代文明の「大規模灌漑農耕文明」「金属器農具・武器文明」やその周辺の牧畜・遊牧民から生まれたユダヤ・キリスト・イスラムの「一神教文明」に対し、それ以前に世界各地に普遍的にあった祖先霊信仰の「共同体社会文明」を明らかにするものです。

③ わが国は異民族の武力支配を受けたことがないため、1万数千年の縄文時代の言語や宗教・文化・農耕などの伝統をそのまま現代に残し、「倭音倭語・呉音漢語・漢音漢語」の3重構造の言語記録を残しており、出アフリカからの全世界の共同体文化の解明に寄与することができるという重要な役割を持っています。

④ これまでの縄文学は「弥生人征服史観」の影響を受け、古事記日本書紀に書かれた1~3世紀のスサノオ大国主一族の建国から現代に連続する農業・手工業、建築文化、食文化、祭りや宗教民俗、芸術などとの連続性についての追究が弱く、世界遺産登録にあたってはジャンルを超えた総合的な取り組みが求められます。

⑤ 「文明の衝突」が取りざたされる現代、それ以前の世界的な共通価値として、生類の霊継(ひつぎ=DNAのリレー)=命を大事にする「共同体文明」の解明をリードする取り組みです。

⑥ 縄文時代の主要遺跡・遺物があり、博物館・資料館・考古館などが充実し、住民と進める継続的な研究体制があり、御柱祭・山車祭り・お山信仰・性器信仰など、ドラヴィダ海人・山人族からの霊(ひ:祖先霊)信仰を継承し、歴史文化観光を推進してきている4県を選んでいます。

⑦ すでに縄文時代を起源とする「山・鉾・屋台行事」(宗教文化)と「和食」(生活文化)の2つがユネスコ無形文化遺産に登録され、さらに霊(ひ)信仰を受け継いだ世界遺産の「厳島神社」「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」が登録されており、これに日本中央の縄文遺跡群を加え、縄文の生活生産文化、宗教・芸術を加えた共同体文明の「縄文文明」として提案することが重要と考えます。

⑧ 御柱祭・山車祭り・お山信仰・性器信仰などが、スサノオ大国主時代からの原神道世界遺産厳島神社」「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」のルーツであることを強調するとともに、現代と繋げることが重要です。

⑨ 霊(ひ)・霊継(ひつぎ)信仰の八百万神信仰の原神道をベースにして独自の発展を遂げた仏教関係の世界遺産法隆寺地域の仏教建造物」「古都奈良の文化財」「古都京都の文化財京都市宇治市大津市)」「紀伊山地の霊場と参詣道」「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―」との関係を明らかにし、日本文明・日本文化の全体像を世界に明らかにする機会とすべきです。

⑩ 「日本列島文明」として、沖縄から北海道までの「土器時代」(石器・土器・鉄器時代区分)全体の世界遺産登録を最初から目指すかどうかは、今後のこの地域での取り組みが進み、「北海道・北東北の縄文遺跡群」世界遺産登録や各地の縄文遺跡との連携の中で検討できればと考えます。

 

◇参考◇

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団              http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/