ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート80 「ワッショイ」と山車と女神信仰と「雨・雨乞いの神」

 アフリカからの神山天神信仰の伝播ルートに関心があり、6月17日NHKのBSプレミアムカフェ再放送の「雨を呼ぶ神 マチェンドラ ~ネパール・30万人の祈り~(2001年)」を見ていましたら、神木信仰の20mを超える山車とともに、なんと「ワッショイ ワッショイ」の掛け声が聞こえてきたのです。

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 木の山車を組み立てるツルで編んだ綱を引くときや山車を引くときの掛け声です。さらに「マチェンドラ」は観音様(観音菩薩)というのですから、女神になります。仏教と習合する前の原ネパール宗教では女神信仰だったのです。

 さらにさらに、マチェンドラは「雨の神」なのですが、「霊=靈(旧字体)=雨+口口口+巫(みこ)」(倭音:ひ・ぴ、呉音:リョウ、漢音:レイ)ですから、巫(巫女)が雨乞いをするという字であり、中国や日本でも「雨乞い」の女神信仰があったと思われます

 「縄文ノート41 日本語起源論と日本列島人起源」において、私は次のように書きました。

 

 「大野氏の『日本語とタミル語』(1981年)の冒頭の、大野氏を驚愕させた印象深いエピソードを紹介したいと思います。

 大野氏は1980年に現地に行き、実際の新年である1月15日に行われる赤米粥を炊いて「ポンガロー、ポンガロ!」と叫び、お粥を食べ、カラスにも与えるポンガロの祭りを実際に体験し、青森・岩手・秋田・新潟・茨城にも1月11日、あるいは小正月(1月15日)にカラスに米や餅を与え、小正月に小豆粥を食べる風習があることを確かめています。

・・・

 カラスに米や餅を与えるのもまた、カラスを猿や狼・鹿・鶏などと同じように先祖の霊(ひ)を天から運び、送り帰す神使としてして見ていたと考えます。

 さらに、秋田・青森では小正月に豆糟(大豆や蕎麦の皮に酒糟などを混ぜたもの)を「ホンガホンガ」と唱えながら撒く「豆糟撒き」の風習があり、長野県南安曇郡では「ホンガラホーイ ホンガラホーイ」と囃しながら鳥追いを行い、餅を入れた粥を食べるというのです。沖縄では「パ行→ハ行」への転換があることからみて、「ホンガ」「ホンガラ」は古くは「ポンガ」「ポンガラ」であったのです。

 ここでは「小正月祝い」「赤米粥と小豆粥、赤飯」「カラス行事」「ポンガロとホンガ・ホンガラ」の共通点があり、ヒンズー教や仏教以前から同じような宗教行事が続いていることが明らかです。

 他の宗教行事に特有な「希少性・固有性・継承性」のある単語、「どんど焼き左義長」などの意味不明語や群馬県片品村の猿追い祭りで地面に赤飯を投げ合う「えっちょう・もっちょう」の掛け声、多くの祭りの「わっしょい」「えっさ」「どっこいしょ」「そーりゃ」「ナニャドラヤ」などの掛け声のルーツについても検討してみるべきと考えます。「希少性・固有性・継承性のある単語」に絞った調査です。」

 

 この最後の「わっしょい」がなんと、ネパールの山車の綱を引く掛け声にもあったのです。あとで妻に説明もせずに画面を見せると「ワッショイ」と聞こえたとビックリしています。ホームページで検索してみると、ブログ「ネパールと日本de出産子育て日記(み•うら)」の「マチェンドラナート祭はじまる」https://ameblo.jp/yucchimonmon/entry-12017825331.htmlにも「ミムナートを引くのは威勢のいい子どもたち。気合い十分‼︎ 日本の山車に似とって、掛け声が「わっしょいわっしょい」に聞こえる。」というのです。

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 びっくり仰天とともに、昔よく見ていたテレ朝の深夜番組『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」を思い出しました。

 ジャングル・ブック・オリジナル・サウンドトラックからは「チンコ すごい」が、エルヴィス・プレスリーの歌からは「お酢をください」が、サイモンとガーファンクルの歌からは「坊さんの乱闘」が確かに聞こえるのです。

 ネパールの「ワッショイ ワッショイ」の掛け声もまた「空耳」の可能性があります。

 しかしながら「ポンガ」の掛け声と同様に、この「ワッショイ」は「雨乞い神事」「女神信仰」「山車づくり」とワンセットであり、単なる音の一致の空耳ではなく、神事としても希少な類似性が見られるのです。

 また、「山車」については、「帆人の古代史メモ」61~66の「『置き山』『曳き山(山車)』『担ぎ山(御輿)』」考1~6で書き、2018年12月のレジュメ「大阪万博のシンボル『太陽』『お祭り広場』『原発』から次へ」で次のように要約しました。

 

6 黄泉帰り宗教から、昇天降臨宗教へ (5) 霊(ひ)信仰は現代に引き継がれている

 祭り屋台や御輿に家々の神棚の祖先霊を乗せて神社に運び、祭神の霊とともに山上や海岸の御旅所に運び、祖先霊を天に送り、パワーアップした神を迎え、山車や御輿に移して神社に迎え、さらに各家の神棚に返す儀式もまた、霊(ひ)の再生儀式である。これらの行事は、宗教儀式から単なる民俗行事に変わり、その意味は忘れられてきつつある。

 この山車のルーツは、姫路の総社(射楯兵主神社)に伝わる20年の1度の「3ツ山大祭」、60年に一度の「1ツ山大祭」の置き山にあり、この祭りは播磨国一宮の伊和神社から伝わり、その前は出雲大社の「青葉山古事記ホムチワケが言葉を話せるようになった物語に登場)」に原型があったと考えられる。なお、総社は広峰神社などに祭られているスサノオの御子の射楯神=五十猛神(倭武命)と大国主を祭っている。栃木県那須烏山市八雲神社の「山あげ祭」や仙北市角館町の「大置山」、高岡市二上射水神社などの「築山」も同じものである。

 広峰神社からスサノオ牛頭天王)の霊を祇園の八坂神社に分霊した時、その途中の篠山市の波々伯部神社(「丹波祇園さん」)で休んだとされ、ここの「お山行事」では、3年ごとに「キウリヤマ(山を台車の上に組んだもの)」を曳き、御旅所に御幸が行われている。これが、山車、曳山、山鉾の原型である。担ぎ山(御輿、山笠、屋台)はさらにその発展型である。」

 

 日本の「山車」は天神信仰の祖先霊を招く「お山」神事に由来し、祖先霊を山から天に送り、迎える「山車(だし:神の乗り物)」ですが、ネパールの「山車」もまた緑で覆った山に見立てており、古事記垂仁天皇の条に書かた出雲大社の前に置かれた「青葉山」と同じであったと考えられます。

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 「他の宗教行事に特有な「希少性・固有性・継承性」のある単語、「どんど焼き左義長」などの意味不明語や群馬県片品村の猿追い祭りで地面に赤飯を投げ合う「えっちょう・もっちょう」の掛け声、多くの祭りの「わっしょい」「えっさ」「どっこいしょ」「そーりゃ」「ナニャドラヤ」などの掛け声のルーツについても検討してみるべきと考えます。「希少性・固有性・継承性のある単語」に絞った調査です」と書きましたが、皆さんも注意してみていただけませんか。

 なお、ツルで編んだ太い綱と木だけで山車の塔を組み立てていく技術を見ていると、徳島県の「祖谷のかづら橋」を思い出します。また20mを越えるネパールの山車の高さは、姫路の播磨総社(射楯兵主神社)18mの「三ツ山・一ツ山」や鉾頭まで約25m(真木15m)の京都祇園祭の山鉾などとの技術的な同質性を感じます。 

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□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/