ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

186 「海人族縄文文明」の世界遺産登録へ

 5000~4000年前のイギリス・アイルランドの「西のストーンサークル文明」に対し「東のウッドサークル文明」を示す6000~2000年前頃の真脇遺跡のある能登町は、能登半島地震で大きな被害を受けました。

 過疎・高齢化が進み、老朽化した多くの家屋が倒壊し、道路・水道・電気などインフラが破壊された今こそ、4000年続いた縄文海人族の歴史を世界遺産として登録をめざし、海人族である日本人の長い歴史ある定住地の1つのシンボルとして、そして全世界から人類史に関心のある人々を引き付ける観光地として復興を進めて欲しいと願っています。

 世界最古の2.3万年前頃の沖縄県南城市のサキタリ洞窟遺跡の貝製の釣り針や全国各地で発見されている鹿製の釣り針や銛、ヤス、網漁の重石、丸木舟製作に使う丸ノミ石斧の東南アジアからの分布、沖縄から北海道までの貝製腕輪やヒスイの交易、土器技術・文化の交流、日本海を超えたシベリアとの黒曜石の交易、男は危険な海に出て家は女性が守る漁村に残る母系制社会など、「男中心・狩猟・肉食・闘争・戦争文明」とは異なる海人族の「母子中心・採取漁労農耕・糖質DHA食・共同・和平文明」について、世界史に位置づける重要な役割があると考えます。

 

1 縄文遺跡世界遺産登録の経過と課題

 三内丸山遺跡大湯環状列石など4道県17遺跡で構成される「北海道・北東北の縄文遺跡群」は2020年に世界文化遺産に登録され、その取り組みの先駆性は高く評価されます。

 ただ、地域的に限定されていることから、日本列島の縄文文化・文明の全体を網羅しておらず、世界最高水準の縄文研究の成果が反映されていないといわざるをえません。

 「農耕・牧畜を基盤とした同時期の世界の文明と異なり、農耕に移行しないまま定住が営まれた採集・漁労・狩猟社会」という評価は、「農耕・牧畜・定住社会」=「文明段階」、「採集・漁労・狩猟・非定住社会」=「未開段階」とする西欧中心の文明観に基づく差別的な二分法を前提としており、文化・文明の時代区分基準にそもそも問題があると考えます。

 沖縄から南東北までの縄文遺跡群から浮かび上がり、現在に続く祭りや食文化・宗教などの縄文文化・文明をもとに、すでに登録されているユネスコ無形文化遺産の「山・鉾・屋台行事」「和食」と4つの宗教建築・文化の世界遺産を踏まえ、新たな世界遺産登録への取り組みが必要と考えます。

 

 

2 縄文遺跡の新たな世界遺産登録へ

 沖縄~南東北の全縄文遺跡群と観光・展示・案内・学習施設、現在に続く祭りや食文化・宗教などの縄文文化・文明の全体像を示す次のような新たな縄文遺跡群や縄文文化世界遺産登録が求められます。

① 土器鍋のおこげ、土器に残されたマメ・穀類の圧痕、土壌花粉、石器農具が示すイモ・マメ・穀実(ソバ・クリ等)の「縄文農耕」(焼畑農耕):土器鍋等は各地で展示。

 

② 西アフリカ原産のヒョウタン、北アフリカ原産のウリ、インド原産のリョクトウ、東南アジア原産のエゴマ、東南アジア山岳地帯原産のソバ・モチイネ・シソなど「人類移動を示す縄文食」:鳥浜貝塚遺跡などに展示。

 

③ 石床炉による焼石料理、炉穴による干物・燻製料理、土器鍋による煮炊き・蒸し料理、粉食(石皿・磨石)などの「縄文料理革命」:石床炉・炉穴、土器鍋、石皿・磨石は各地で展示。

 

④ 貝塚、貝製・鹿角製釣り針・銛、網漁の重石、丸木舟、製塩土器が示す「漁労文明」:各地に展示。

⑤ 東南アジアから琉球、九州に分布する丸木舟製作用の円筒形丸ノミ石斧、全国各地で発見されている丸木舟、海上移動に欠かせない容器のヒョウタン、土偶に見られる刺青などの「海人族文化」:各地に展示。

 

⑥ 南西諸島産・伊豆諸島産の貝輪、糸魚川のヒスイ、黒曜石、製塩土器などが示す「広域分業交易」:各地に示。

 

⑦ アフリカからの「円形平面住宅」を受け継いだ可能性のある竪穴式住居:各地に復元施設。

 

⑧ 分散住宅配置と共同祭祀のウッドサークル・ストーンサークルが示す都市形成以前の「分散定住共同祭祀社会」:ルなどは発掘展示され、真脇・小矢部・チカモリ遺跡のウッドサークルは復元されている。ウッドサークル・ストーンサークルは「円形平面住宅」を模した死者を祀る宗教施設(地母神信仰、天神信仰)の可能性。

 

⑨ 巨木6本柱・8本柱・方形柱列に見られる「巨木建築文明」:中ツ原の巨木8本柱痕は柱のみ復元、阿久・の方形柱列群は埋め戻されている。御柱祭は巨木建立の共同作業を現代に残している。

 

⑩ ホゾ・ホゾ穴仕口(組手)の「軸組工法高床式建物」(桜町遺跡など):各地に展示・復元建物。雨季に冠水する東南アジア起源の可能性。

 

⑪ 女神像や仮面女神像、妊娠土偶、出産紋土器、石棒(金精)、貝輪・耳飾りなどが示す「母系制社会」:各地に展示施設。卑弥呼の女王国、さらには各地の女神神社(稲荷神社・丹生神社・宗像神社・厳島神社浅間神社や各地の山の神神社)、金精(石棒)信仰などは現代に続く。

 

⑫ 神名火山(神那霊山)崇拝に見られる「神山天神信仰」:阿久遺跡の立石・石列は埋め戻されている。女神(ひじん=霊神)信仰や各地の神名火山(神那霊山)信仰=お山信仰は現代に続いている。

 

⑬ 巨木木柱列・環状木柱列に見られる「神籬(霊洩木)天神信仰」:吉野ヶ里遺跡の立柱や出雲大社心御柱、諏訪などの御柱祭、仏塔の心柱、住宅の大黒柱などに引き継がれる。

 

⑭ 貝輪を好み、海から生まれ海に帰るとする海人族の「海神信仰」:雛流し・精霊船浜降祭・船渡御・海上渡御・神迎えなどの神事

 

⑮ 女神像や土偶、耳飾り、縁飾り土器、香炉などが示す縄文芸術家による「縄文芸術」:各地に展示。

 

⑯ 日本人に多いY染色体D型(アフリカ西海岸にY染色体E型・D型)、頭脳の発達に不可欠な糖質・DHA食(イモマメ穀実・魚介食)が示す「人類誕生・海の道移動史」:縄文ヒョウタンは鳥浜遺跡に展示。

 

3 世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」への追加登録ではなく新規登録へ

 世界遺産として「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」の評価基準のうち、(ⅰ)(ⅵ)や(ⅲ)(ⅴ)の内容は、2021年の「北海道・北東北の縄文遺跡群」と較べて日本中央部縄文遺跡群は新規性があり、異なる場所・空間に共通する文化・文明を示しており、新規登録に該当します。

 沖縄~南東北の縄文遺跡群として一括・新規登録するか、あるいは分割登録するかですが、縄文文化・文明の性格として、海人族(採集・田芋栽培・漁労・海洋交易民)と山人族(採集・焼畑・狩猟民)の2つのタイプに分けて世界遺産登録を提案したいと思います。

 

 

4 世界平和と持続的発展可能な文明社会へ向けて

 今、国連が求めている「持続可能な社会(Sustainable society)」あるいは「持続敵開発可能な目標(Sustainable Development Goals: SDGsエスディージーズ)」を達成するには、西欧中心文明史観の見直しが必要と考えます。

 地球温暖化と異常気象、熱帯雨林を破壊するプランテーション、アフリカ・アジアの塩害を招く灌漑農業やアメリカの化石水依存の灌漑大規模農業、農薬・除草剤・化学肥料・原発放射性廃棄物などによる地球環境汚染、森林を破壊し大量のメタンガスを発生させる牧畜、海水温上昇によるサンゴ礁の消滅、マイクロプラスチックによる漁業・生態環境の深刻なダメージ、新興感染症の頻発など、第1次産業革命(農業革命)、第2次産業革命(工業・流通革命)、第3次産業革命(情報・通信革命)による自然破壊と食料危機、世界一体化(グローバル化)による格差拡大への不満爆発など、現在と将来の生類の生命への深刻な影響が心配されてきています。

 現在と将来の地球環境や生類の生命、ヒトの人権、生活、共同性などを基準に考えると、男性中心・西欧中心の「狩猟・肉食・闘争・戦争進歩史観」による「文明社会による野蛮・未開社会の支配・開発」という文明基準そのものの見直しが求められており、世界遺産の文化・文明の基準についても「命(DNA)の持続可能な社会」に向けて再構築すべき時と考えます。

 1万数千年の縄文時代は男中心の「狩猟・肉食・闘争・戦争」社会ではなく、母子主体の「採集漁労農耕・糖質DHA食・共同・和平」社会であり、あらゆる「命(DNAの継承)」を何よりも大事にする持続可能な「母系制共同体文明」であり、かつて世界全体にあった共通文明としてとらえなおすべきと考えます。人類はイモマメ穀実・魚介の「糖質・DHA食」と母子群のおしゃべりコミュニケーションにより、知能を発達させてきたのです。乳幼児の成長をみてもわかるように、

 すでに和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたように、恵まれた海・川・山・森・林・原の自然に育まれた食材を活かした和食は健康長寿で持続可能な食文化・文明として世界に認知され広まってきており、その起源は縄文時代に遡るのです。

 漁労・農耕具や生活用具ではなく狩猟・殺人用具を中心に時代分析を行い、古代軍国主義奴隷制国家の侵略・防御・支配拠点である「城壁都市」を「文明=civilization(都市化)」基準としたギリシア・ローマ文明で世界史を見るのではなく、「自然・命(DNA)の持続的発展可能な社会の見本となる文化・文明」という新たな視点を提案したいと考えます。

 縄文文化・文明の世界遺産登録は、かつて全世界に普遍的に存在した文化・文明を明らかにし、自然に生かされ、人間の創造的才能を育み、共に支えあい尊重しあう豊かな共同体社会をめざす共生・共同型社会への第1歩となるものです。