ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

183 八ヶ岳高原の女神・石棒・巨木拝殿・黒曜石・土器鍋食・散村文明

 2015年に群馬県片品村で「日本中央縄文遺跡群の世界遺産登録」を提案して以来、私は世界へ「縄文文化」「縄文文明」をアピールすることを提案してきましたが、さらに踏み込んで考えたいと思います。

 

1 「縄文文明を世界遺産へ」の提案

 これまで「縄文芸術」「縄文宗教」「縄文食」「縄文建築」「縄文交易」「縄文社会」「縄文文明」「世界遺産登録」について考察を進め、次のような小論を書いてきました。なお、「(縄文〇〇)」は本ブログ番号です。

1-1 縄文芸術論

 181215→201223(縄文14・31) 大阪万博のシンボル「太陽」「お祭り広場」と縄文

 210205(縄文52) 縄文芸術・模様・シンボル・絵文字について

 211204(縄文114) 縄文アーチストと「障害者アート」 

1-2 縄文宗教論

⑴ 霊(ひ)信仰

 140827→151023(縄文7) 霊(ひ)信仰の下での動物変身・擬人化と神使(みさき)、狩猟と肉食

 150630→201227(34) 霊(ひ)継ぎ宗教(金精・山神・地母神・神使文化) 

 190129(縄文15)  「自然崇拝、アニミズム、マナイズム)、霊(ひ)信仰」

 200307(縄文10) 大湯環状列石三内丸山遺跡が示す地母神信仰と霊(ひ)信仰 

 201026(縄文38) 「霊(ひ)」とタミル語「pee(ぴー)」とタイ「ピー信仰」 

 210518(縄文74) 縄文宗教論:自然信仰と霊(ひ)信仰 

 220323(縄文128) チベットの「ピャー」信仰 

 220404(縄文132) ピュー人(ミャンマー)とピー・ヒ信仰 

 220513(縄文138) 縄文人の霊(ひ)宗教と『旧約聖書』 

⑵ 女神信仰

 210415(縄文69) 丸と四角の文明論(竪穴式住居とストーンサークル)

 210510(縄文73) 烏帽子(えぼし)と雛尖(ひなさき) 

 210619(縄文80) 「ワッショイ」と山車と女神信仰と「雨・雨乞いの神」 

 210918(縄文96) 女神調査報告1 金生遺跡・阿久遺跡

 210924(縄文98) 女神調査報告2 北方御社宮司社・有賀千鹿頭神社・下浜御社宮司神社 

 210930(縄文99) 女神調査報告3 女神山(蓼科山)と池ノ平御座岩遺跡 

 211003(縄文100) 女神調査報告4 諏訪大社下社秋宮・性器型道祖神・尾掛松 

 211008(縄文101) 女神調査報告5 穂高神社の神山信仰と神使 

 211213(縄文102) 女神調査報告6 石棒・男根道祖神 

⑶ 神山天神(神名火山(神那霊山))信仰

 200801・1226(縄文33) 「神籬(ひもろぎ)・神殿・神塔・楼観」考 

 200808→1228(縄文35) 蓼科山を神名火山(神那霊山)とする天神信仰 

 200903→1231(縄文36) 火焔型土器から「龍紋土器」 へ 

 201029→210110(縄文40) 信州の神名火山(神那霊山)と「霊(ひ)」信仰 

 210118(縄文44) 神名火山(神那霊山)信仰と黒曜石

 210312(縄文61) 世界の神山信仰 

 211025(縄文104) 日本最古の祭祀施設―阿久立棒・石列と中ツ原楼観拝殿 

 211030(縄文105) 世界最古の阿久尻遺跡の方形巨木柱列 

 220111(縄文118) 「白山・白神・天白・おしら様」信仰考 

 221024(縄文154)  縄文建築から出雲大社へ:玉井哲雄著『日本建築の歴史』批判

1-3 縄文語論

 180816・21(縄文93) 「かたつむり名」琉球起源説―柳田國男の「方言周圏論」批判 

 181204→210907(縄文94) 『全国マン・チン分布考』からの日本文明論

 181210→210922(縄文97) 「3母音」か「5母音」か?―縄文語考

 200918・0112(縄文41) 日本語起源論と日本列島人起源説 

 210113(縄文42) 日本語起源論抜粋 

 220820(縄文147) 『ちむどんどん』からの古日本語(縄文語)解明へ 

 220928(縄文153) 倭語(縄文語)論の整理と課題

 230224(縄文162)  絵文字か記号かー「謎の記号 祖先からのメッセージ」から  

1-4 縄文生活論

 140617→200128(縄文5・25) 「人類の旅」と「縄文稲作」と「三大穀物単一起源説」

 200725→1215(縄文26) 縄文農耕についての補足 

 201123→1218(縄文29) 「吹きこぼれ」と「お焦げ」からの縄文農耕論 

 211128(縄文111) 9万年前の骨製銛からの魚介食文明論

 211208(縄文113) 道具からの縄文文化・文明論 

 201220→1221(縄文30) 「ポンガ」からの「縄文土器縁飾り」再考

 220603(縄文140) イモ食進化説―ヤムイモ・タロイモからの人類誕生 

 220611(縄文141) 魚介食進化説:イモ・魚介、ときどき肉食 

1-5 縄文交易論

 2017冬 ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”(『季刊 日本主義』40号)

 2018冬 海洋交易の民として東アジアに向き合う (『季刊日本主義』44号)

 200729・0903(縄文27) 縄文の「塩の道」「黒曜石産業」考

1-6 母系制社会論

 181201→200401(縄文13) 妻問夫招婚の母系制社会1万年

 210826(縄文92) 祖母・母・姉妹の母系制

 181201→210824(91) 台湾・卑南族と夜這い・妻問夫招婚の「縄文1万年」

 211017(縄文103) 母系社会からの人類進化と未来

 220307(縄文126) 「レディ・サピエンス」と「女・子ども進化論」

 220827(縄文148) 「地・姓・委・奴・卑」字からの母系社会論 

 220915(縄文151) 「氏族社会」から「母族社会」へ

 230605(縄文170) スサノオ大国主建国論からの妻問夫招婚の母系制社会論

 230714(縄文173) 「原始、女は太陽」か、「原始、女は霊(ひ)を産む神」か 

 230723(縄文174) 公開講座「縄文は母系制社会であった」報告 

 231115(縄文181) 縄文石棒と世界の性器信仰

1-7 縄文文明論

 150723→0816(縄文8) 「石器―土器―金属器」の時代区分を世界へ

 190413・24→0508 「日本列島文明論」メモ―ハンチントン文明の衝突』より

 190619・21 「32 日本列島文明の誕生」(『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』抜粋)

 200729→210228(縄文48) 縄文からの『日本列島文明論』

 200926→210204(縄文51) 縄文社会・文明論の経過と課題

 210219(縄文57)  4大文明論と神山信仰

 210222(縄文58) 3重構造の日本文化・文明

 210507(縄文72) 共同体文明論 

 210712(縄文84) 戦争文明か和平文明か

 220107(縄文117) 縄文社会論の通説対筆者説 

1-8 世界遺産登録

 150630→0816(縄文9・34) 祖先霊信仰(金精・山神・地母神信仰)と神使文化を世界遺産

 150923→200307(縄文11) 「日本中央部土器(縄文)文化」の世界遺産登録をめざして

 210208(縄文49) 「日本中央縄文文明」の世界遺産登録をめざして

 210226(縄文59) 日本中央縄文文明世界遺産登録への条件づくり 

 210626 縄文82) 縄文文明論の整理から世界遺産登録へ

 230129・0206(縄文160) 「日本中央部縄文遺跡群」の世界遺産登録にむけて 

 230419・29(縄文166) 日本中央部縄文文明世界遺産登録への研究課題 

 

 以上のような各分野の検討から、世界史の中での縄文文明の位置づけとして、「縄文ノート48 縄文からの『日本列島文明論』」で次のようにまとめています。

 

 ヨーロッパ先史時代の研究のマルクス主義考古学者のゴードン・チャイルドは文明の基準としてさらに細かく「効果的な食料生産」「大きな人口」「職業と階級の分化」「都市」「冶金術」「文字」「記念碑的公共建造物」「合理科学の発達」「支配的な芸術様式」の9つの指標を掲げています。私はそれに「宗教」「共同体社会」「交易・交流」を加え、「縄文時代」「紀元1~2世紀のスサノオ大国主一族の建国」「天皇家大和朝廷」のどの段階から文明段階と認めるべきか、検討してみました。

 私はスサノオ大国主一族の建国からを文明段階と考えてきていましたが、この基準によっても縄文(土器)時代1万年を1つの文明段階として位置づけるべきと考えるに至りました。

 「朝鮮半島・長江流域からの弥生人による縄文人征服」の延長上に弥生人天皇の建国を位置付ける「新旧皇国史観」「反皇国史観」「大和中心史観」は、縄文文明論とスサノオ大国主建国文明論に対し、2重の見直しが必要と考えます。

 

2 縄文芸術・女神山信仰・黒曜石・土器鍋食・巨木拝殿との出合い

 私が縄文に関心を持つようになったのは、岡本太郎氏による火焔型土器の紹介と1970年の大阪万博の「太陽の塔(実際は黒い太陽を背負い内に「生命の樹」を抱いて天に昇る鳥の塔)」、縄文彫刻家の猪風来氏と沖縄彫刻家の金城実氏を招いた1985年の狭山市での縄文野焼きのイベントなど、世界に誇るべき縄文アートへの関心からでした。―縄文ノート「31 大阪万博の『太陽の塔』『お祭り広場』と縄文」「48 縄文からの『日本列島文明論』」参照

 その後、村づくりの仕事で通った群馬県片品村での「山の神(女神)・金精・神使(猿)の祭り」に衝撃を受けるとともに、榛東村耳飾り館での世界に類のない耳飾りアクセサリーデザインや旧赤城村の赤城歴史資料館の石棒と各地との交流を示す縄文土器群との出合いから、世界遺産登録への確信を深めたのが第2段階です。金精様(男性性器型)を女体山(日光白根山)や十二様(山の神=女神)に男性が捧げるという片品村の2つの祭りや女性のための耳飾りアクセサリー工房は、縄文時代からの母系制社会の名残りと考えたからです。

 さらに「スサノオ大国主建国論」「邪馬台国論」では、ひと・ひこ・ひめ・ひみこ(霊人・霊子・霊女・霊御子)の八百万神の霊(ひ)・霊継(ひつぎ)宗教、神名火山(神那霊山)・神籬(霊洩木)に見られる神山天神信仰、海人族の交易・妻問夫招婚による建国などを追究してきており、先輩の上田篤氏主催の縄文社会研究会に参加して紀元1~2世紀のスサノオ大国主建国、3世紀の卑弥呼(霊御子)女王国から遡って縄文社会解明に取り組んだのが第3段階です。

 2019年には京大農学部有志の同窓会に参加して八ヶ岳山麓の縄文遺跡群を見学し、中ツ原遺跡の「8本柱巨木建築」が世界最高の48mの「出雲大社本殿」や卑弥呼の「楼観」のルーツではないかと考え、茅野市尖石縄文考古館の「仮面の女神縄文のビーナス」からは母系制社会の確信を深め、富士見町井戸尻考古館の石器農耕具と石器調理具(石包丁・磨り臼・磨り石)では縄文文明の基礎となる縄文農耕土器鍋食文化を再確認し、尖石縄文考古館と井戸尻考古館の石棒からは金精信仰が縄文時代に遡ると再確認し、黒耀石体験ミュージアムでは縄文黒曜石文化世界遺産登録の動きを知りました。

 翌2020年の縄文社会研究会・東京の八ヶ岳合宿では阿久尻遺跡の蓼科山(女神山)に向かう石棒からの石列から神名火山(神那霊山)信仰が縄文時代に遡ることを確信し、さらに阿久尻遺跡の20の巨木方形柱列のうち19が蓼科山を向いていることからこれらの柱列が樹頭を超えて蓼科山を信仰する高層拝殿(楼観)ではないか、と考えるにいたりました。

 

3 「日本中央部縄文遺跡群」(仮称)の範囲と名称

 「日本中央部縄文遺跡群」(仮称)の範囲については、女神(山の神)信仰(石棒奉納)、神山天神信仰(神名火山(神那霊山)・神籬(霊洩木)崇拝)、巨木拝殿、黒曜石・ヒスイ流通、縄文アート(吹きこぼれ縁飾り土器鍋、耳飾り)など共通する宗教、農耕・食・建築・道具文化、芸術があり、その伝統が現代に活かされ遺跡公園や博物館など展示・研究施設が整備され、市町村・住民の積極的な保護活動が見られることなどから対象都府県の区域を決めることになると考えます。

 長野・新潟・群馬・福島・埼玉・千葉・山梨などの縄文遺跡群を想定していますが、重要な縄文遺跡がありながら見学施設(遺跡公園・博物館等)が未整備であったり住民活動のない市町村への働きかけが課題となるように思います。―「縄文ノート160 『日本中央部縄文遺跡群』の世界遺産登録へ向けて」参照

 また、海人族縄文文化の共通性から、石川・富山・福井などは沖縄・鹿児島などと合わせて別の遺跡群として申請すべきと検討中です。―「縄文ノート161 『海人族旧石器・縄文遺跡群』の世界遺産登録メモ」参照

 すでに長和町の星糞峠黒曜石原産地遺跡や諏訪湖周辺の縄文遺跡、山梨県北杜市の金生遺跡、笛吹市甲州市の釈迦堂遺跡、南アルプス市の鋳物師屋遺跡などを含めた遺跡群は「日本遺産」の取り組みが進められ、「星降る中部高地」の名称が付けられています。しかしながら、世界遺産登録へ向けた取り組みとしてはアピールするテーマが弱い弱いように思います。

 蓼科山(女神山)を中心とした母系制社会の神山天神信仰(神名火山(神那霊山)・神籬(霊洩木)信仰)、女神の依り代の石棒、女神像、縄文農耕・土器鍋食をメインテーマとして「女神のさと中部高地」(仮称)とし、縄文時代スサノオ大国主一族建国との繋がりを示す諏訪大社塩尻市の平出遺跡、さらに女神信仰を示す各地の神社群や金精・道祖神、巨木建築文化の伝統を受け継いだ御柱祭なども含めるべきであり、世界遺産としては新潟の火焔型土器や群馬の耳飾りや金精信仰・お山信仰なども含めるべきと考えます。―図1参照

 また、八ヶ岳山麓を取り巻く茅野市・原村・佐久穂町の各遺跡や北杜市の石棒・円形石組のある金生遺跡、北沢川大石棒と双子山・双子池黒曜石原産地と池之平遺跡群、佐久市の月夜平大石棒などについては「八ヶ岳高原縄文遺跡群」(仮称)、女神像と巨木建築群のある八ヶ岳西山麓地域の名称としては「茅野原高原縄文遺跡群」(仮称)などが考えられます。―図2参照 

 

4 「日本中央部縄文遺跡群」(仮称)のシンボル施設「阿久尻遺跡の巨木建築群」

 「日本中央部縄文遺跡群」(仮称)の世界遺産登録運動を進めるにあたっては、登録基準の「(ⅲ) 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である」を満たすシンボル施設として、「茅野原高原縄文遺跡群」(仮称)のうちの蓼科山に向かう立石・石列と蓼科山を向いた19の方形巨木建築のある阿久・阿久尻遺跡の国営歴史公園化を求めるべきと考えます。―「縄文ノート106 阿久尻遺跡の方形柱列建築の復元へ」(211107)参照

 世界遺産登録の評価基準の「(ⅱ) 建築,科学技術,記念碑,都市計画,景観設計の発展に重要な影響を与えた,ある期間にわたる価値観の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである」「(ⅵ) 顕著な普遍的価値を有する出来事(行事)、生きた伝統、思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)」にも該当する遺跡であり、「縄文巨木拝殿→出雲大社→邪馬壹国の楼観→仏塔」と続く巨木建築文明として、また世界各地の分明に見られる神山天神信仰や日本各地の神名火山(神那霊山)信仰を示す遺跡であり、現代の御柱祭りに引き継がれる遺跡として、阿久尻遺跡の方形巨木建築を日本中央縄文遺跡群のシンボル施設として位置づけ、復元を図ることを提案したいと思います。―縄文ノート「33 『神籬(ひもろぎ)・神殿・神塔・楼観』考」「59 日本中央縄文文明世界遺産登録への条件づくり」「104 日本最古の祭祀施設―阿久立棒・石列と中ツ原楼観拝殿」「105 世界最古の阿久尻遺跡の方形巨木柱列」「154  縄文建築から出雲大社へ:玉井哲雄著『日本建築の歴史』批判」「縄文160 『日本中央部縄文遺跡群』の世界遺産登録にむけて」「166 日本中央部縄文文明世界遺産登録への研究課題」参照

 難点は反対運動を抑えて中央自動車道が建設されて阿久遺跡が埋められ分断され、阿久尻遺跡が工場敷地化されていることですが、世界遺産としての価値を広く世界にアピールすることにより、中央自動車道の地下道化による環状列石の復元を国に求めるべきと考えます。

 

5 縄文時代は「散村・共同祭祀社会」

 「縄文ノート91 台湾・卑南族と夜這い・妻問夫招婚の『縄文1万年』」(181201→210823)」では、母系制社会の居住形態について次のように書きました。

 「全国各地の市町村総合計画(5年の基本計画、10年の基本構想)に携わってきましたが、・・・疑問に思ったのは黒曜石などの鏃が畑からいたるところで数多く出てくることと、居住跡が実に多いことでどれだけの戸数・人口であったのか、驚かされることです」

 「また信州の八ヶ岳黒姫山山麓や上州の榛名・赤城山麓や片品川山間部、岩手県の沿岸部、中国・四国地方などで見た居住跡の多さは、『妻問・夫招婚社会』では男子は家を出、家を継承する長女以外の女子もまた家を出て男を迎えるため、住居跡が増えた可能性を示しています。狩りの危険が少なく、豊かな安定した煮炊き食により長寿化が進み、自由時間が増えると多産となり、家を出る男子数は増え、同時に、長女以外の女子は家を建ててもらい、男を迎える社会となり、住居址が分散して数多く増えた可能性です。片倉佳史著の『観光コースではない台湾』では、台湾には成人になると女子は家を建ててもらい、男を迎えるという『族群』があると書かれています」

 「原住民の祭礼・祭祀に欠かせない祖霊部屋は巫女信仰のアニミズム」「豊年祭 - 粟の収穫を祈願する祭祀; 収穫祭 - 粟の収穫を感謝する祭祀; 大狩猟祭」「祖霊部屋(巫師部屋)、少年会所、青年(男子)会所」「頭目制度と男子会所による年齢階級組織が混在した母系社会」

 また、「縄文ノート92 祖母・母・姉妹の母系制」(210826)では、日本の青年宿・若衆宿・若者宿が母系制社会の妻問夫招婚の名残である可能性について書いています。

 「わが国も明治までは集落で『青年宿、若衆宿、若者宿など』が設けられ、年長者がリーダーとなり、後輩たちに指導を行い、村内の警備や作業、祭礼を担い、飲酒・喫煙や恋愛、結婚などの生活指導を行い、リーダーが夜這い指示することもあったとされています・・・。

 このような風習は、女が家を出るという家族形態の前に、男が家を出るという家族形態があり、それが残っているとしか思えません。・・・

 稲作開始により農業が男中心となり、農地継承と年貢確保から男系社会に移行する一方で、「男は漁や交易、女は家を守る」という海人族の母系制の伝統もまた根強く残ったと私は考えています」

 さらに「縄文ノート173 『原始、女は太陽』」か、『原始、女は霊(ひ)を産む神』か」(230714)、「縄文ノート181 縄文石棒と世界の性器信仰」(231115)では、竪穴式住宅の竃の角に置かれた石棒は男性が贈った可能性が高く、母系制社会の妻問夫招婚を示している可能性が高いこと明らかにしました。

 「縄文の女神信仰などからみて、縄文人の妻問夫招婚はスサノオ大国主建国にそのまま引き継がれたと考えています。なお、後述するように、竪穴式住居内の石棒(金精:女神の依り代)からみて、竪穴式住居は母系制社会を示していると考えます」(縄文ノート173)

 「中ツ原遺跡(長野県茅野市:縄文中期~後期前半)では竪穴式住居内の竃(かまど)の角に石棒が置かれています。・・・火を使い竃で料理するのは女性の役割とみられ、火を使った祭祀もまた女性が担っていた可能性が高く、これらの男根型石棒は片品村の金精奉納の祭祀からみて、母系制社会の妻問夫招婚で男性が女性に贈ったものと考えられます」(縄文ノート181)

 図3に添付した「霧ケ峰・蓼科山八ヶ岳山麓遺跡図」のように、八ヶ岳高原(仮称)においても、縄文遺跡は広範に分布した「散村居住形態」であり、阿久遺跡では周辺地域から墓石を持ち寄った大規模な環状列石の共同墓地が見られ、その中央広場には蓼科山に向かう石列の共同祭祀モニュメントがあり、南の阿久尻遺跡には他蓼科山を向いた19の巨木建築(筆者説:蓼科山(女神山)信仰の拝殿)が建築されています。

 食料争奪の争いや略奪婚、異民族侵入などのなかった縄文社会は、芋豆栗雑穀の採集・栽培による主食料の調達と調理・保存、子育てを担う女性主導の社会であり、多世代居住の大型住居や共同防御の村・町・都市集住の必要がなく、家族単位で家を持ち妻問夫招婚により母系2世代・3世代が集まった小さな集落が散在した「散村居住」であり、葬式や同じ祖先霊信仰の共同祭祀を行う氏族・部族集団を形成していたと考えられます。芋豆栗雑穀の焼畑農耕は散村居住形態の方が適しており、大規模集落を形成する必要がなかったと考えられます。

 

6 文明の時代区分と世界遺産登録基準

 男中心の肉食・戦争進歩説の西洋中心史観は、「狩猟採集」=「石器」=「移動」=「未開(uncivilized)」、「農耕(agriculture)」=「金属器」=「定住・都市化」=「文明(civilization)」という単純な未開・文明2区分説ですが、三内丸山遺跡ではこの枠組みのもとで「狩猟採集段階の定住」として「未開段階」として世界遺産登録がなされています。

 これに対して、「採集漁労時々狩猟」「鳥獣害対策の黒曜石鏃狩猟と落とし穴猟」「芋豆栗雑穀・石臼粉食」「土器鍋煮炊き蒸し食」「女神信仰(霊(ひ)・霊継(ひつぎ)の神山天神信仰)」説の私は、「焼畑農耕」「土器(鍋)食」「散村定住社会」「共同墓地と共同祖先霊祭祀」「母系制社会」の文明段階を新たに設定し、世界標準とすべきと考えています。

 そしてアフリカ・アメリカを侵略し、狩猟採集の原住民を殺害・奴隷化・差別迫害し植民地化することを合理化するために考案された西欧人の「未開・文明」という時代区分そのものを変え、全てを統一基準(文化、文明、その他)で区分すべきと考えます。―表2・3参照 

 世界遺産登録の認定基準の「(ⅴ) あるひとつの文化(又は複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は,人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である。(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)」については、私はこれまで表4のように「①環境共生の焼畑農耕を示す石器農具と鳥獣害対策の大規模な黒曜石鏃生産と流通、落とし穴猟」「②長野県栄村秋山郷やかつての山梨県早川町奈良田の『焼畑農耕』」をあげていましたが、「陸上・海上の土地利用形態」としての焼畑農耕にプラスし、「伝統的居住形態」として「散村居住」「大規模共同祭祀施設」を申請項目としてあげるべきと考えるにいたりました。―縄文ノート「49 『日本中央縄文文明』の世界遺産登録をめざして」「59 日本中央縄文文明世界遺産登録への条件づくり」「77 北海道・北東北の縄文世界遺産登録の次へ」「82 縄文文明論の整理から世界遺産登録へ」「160 『日本中央部縄文遺跡群』の世界遺産登録にむけて」「166 日本中央部縄文文明世界遺産登録への研究課題」参照

 なお「散村居住」「大規模共同祭祀施設」については、イギリスのストーンヘンジ文明など、世界各地に共通する文明が存在すると考えています。

 世界遺産登録に向けては、遺跡・遺物全体を網羅した分析がまだできておらず、仮説段階の「絵文字」「縄文食」「焼畑農耕」「女神信仰の民俗調査」などのテーマについて、各分野の専門家を交えた調査・研究・議論が求められます。

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなのくに)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

 ・『奥の奥読み奥の細道』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2012夏「古事記」が指し示すスサノオ大国主建国王朝(『季刊 日本主義』18号)

 2014夏「古事記播磨国風土記が明かす『弥生史観』の虚構」(前同26号)

 2015秋「北東北縄文遺跡群にみる地母神信仰と霊信仰」(前同31号)

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(前同40号)

 2017冬「スサノオ大国主建国論1 記紀に書かれた建国者」(『季刊山陰』38号)

 2018夏「スサノオ大国主建国論2 「八百万の神々」の時代」(『季刊山陰』39号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018夏「スサノオ大国主建国論3 航海王・スサノオ」(『季刊山陰』40号)

 2018秋「『龍宮』神話が示す大和政権のルーツ」(『季刊 日本主義』43号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(前同44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(前同45号)

<ブログ>

 ナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

 帆人の古代史メモ          http://blog.livedoor.jp/hohito/

 ヒナフキン邪馬台国ノート      http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

 霊(ひ)の国の古事記論       http://hinakoku.blog100.fc2.com/