164 生活者の女と戦士の男の「民主主義・平和・宗教」
別テーマのまとめに1週間ほど集中していましたが、今回は縄文時代の母系制社会から、現代の民主主義と平和、宗教について考えてみました。
1 男女平等後進国「日本」
世界「男女平等(ジェンダーギャップ)ランキング2022」(196か国中146か国集計:ロシアはデータなし)によると、女性の賃金格差、管理職比率、政治参加などの評価が低い日本は116位で、G7では最下位、韓国99位、中国102位よりも下位であり、アフリカ・中東諸国の仲間の後進国です。
27位のアメリカの仲間(子分)として「先進国」「大国」「民主主義国」のふりをしても、実態では日本はアフリカ・中東諸国の仲間ではないでしょうか?
1964年に私は大学に入学しましたが、当時、「日本はスエーデン型の福祉国家・社会民主主義国をめざすか、ソ連型社会主義国を目指すか」という議論をよくしたものです。1960年代のアメリカは文化などない俗悪な金権・物質文明国であり、インディアン・黒人差別がひどく、原水爆実験を繰りかえし、自作自演のトンキン湾事件を口実としてベトナム北爆を行う野蛮な軍国主義国家と多くの学生はみており、アメリカ大好きという学生は少数でした。
しかしながら、結果としては日本はアメリカを理想として追随する国となり、「男女平等(ジェンダーギャップ)ランキング」1位のアイスランド、2位のフィンランド、3位のノルウェー、4位のニュージーランド、5位のスウェーデンなどとはかけ離れた「自由・平等・友愛」の「平等・友愛」を忘れた金権自由主義の国となってしまいました。ロシア・中国もまた格差が拡大する侵略的な「自由・平等・友愛」とはほど遠い国となってしまいました。
2 母系制社会の歴史
今、縄文社会・人類史研究を進める中で、人類は母子のおしゃべりと採集・栽培・漁労によって熱帯雨林で誕生し、女神信仰の母系制の氏族・部族社会として発展し、征服戦争により財産を奪い、女・子どもを奴隷とすることができるようになり父系制社会へと移行し、征服神のユダヤ・キリスト・イスラム・ヒンドゥー教などが成立したと考えるようになりました。
日本もまた縄文社会の内発的発展である1~3世紀のスサノオ・大国主建国の時代は、母系制社会の妻問夫招婚を基本とした社会であり、わが国では筑紫鳥耳・大国主王朝の末裔(11代目)である卑弥呼(霊御子)の邪馬壹国は魏王朝が確認した女王国であったのです。
魏斉王が卑弥呼に対し「国中の人に示し、国家が汝を哀れむのを使知せよ」として男(大官・副官)向けの武器ではなく、百枚の鏡、絹織物、真珠、鉛丹(口紅用か)を与えたのは、卑弥呼を共立した30国もまた女王国であり、百枚の鏡は「卑弥呼10枚+30国×3枚」など何ランクかの鏡を与えた可能性が高く、日田で発見された金銀珠龍文鉄鏡こそ卑弥呼に与えられた鏡の可能性が高いと考えます。―『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)参照
妊娠土偶や仮面女神像、女神に男が捧げる男根崇拝に見られるように縄文時代は母系制社会で、その延長上に妻問夫招婚のスサノオ・大国主一族の建国があったのであり、全世界の旧石器・新石器時代・土器時代からの母系制の氏族・部族社会の姿を文字記録として残しています。
3 生活者の女の民主主義と戦士の男の民主主義:「合意民主主義」と「強制民主主義」
魏書東夷伝倭人条に書かれた女王国・邪馬台国では、「その会同の坐起(ざき)に、父子男女の別なく、人性酒を嗜(たしな)む」と書かれており、会議や儀式には長幼男女の区別なく参加し、終了後にはみんなで土器鍋をつつき、酒を飲んでいたのです。
ここで重要なことは、「相攻伐歴年、乃共立一女子為王」からみて、「対立・攻伐を共に収める」合意民主主義が邪馬壹国では行わていたのであり、「侵略・略奪のための軍隊組織の民主主義」(規律を保つために多数決で少数者を従わせる強制民主主義)ではなかったことです。
3世紀に「其会同坐起 父子男女無別」であったわが国は、男主導の軍国主義の封建時代からその伝統を忘れ、「男女平等ランキング」116位の後進国になり下がってしまったのです。
4 生活者の女の平和と戦士の男の平和:「命を守る平和」と「命を奪う平和」
「建国史からみた象徴天皇制と憲法9条」(『季刊日本主義』35号2016年春)において、私は「女性が、殺され、犯され、夫や子どもを奪われる立場から生理的に戦争を嫌うのとは違って、私の場合は、本音を隠さず言うと、『血わき肉おどる』チャンバラ映画や戦争映画がずっと大好きでありながら(宮崎駿氏もそうであろう)、論理的に『非戦・反戦』である。妻からは『戦争映画をなんで見るのかわからない』『偽物』と批判され続けてきたが、『命をかけて戦争する』という立場からずっと戦争を考えてきた」と書きましたが、女が「命を守る平和」を目指すのに対し、男は「軍事力で平和を維持する」(命を奪う平和)という文化・歴史を引きずってきたのです。
さらに、本ブログの「縄文ノート86 古代オリンピックとギリシア神話が示す地母神信仰」では次のように書きましたが、生活者である「女の平和」と戦士である「男の平和」は異なるのです。
古代ギリシアのアテナイで紀元前5~4世紀に活躍した喜劇作者・アリストファネスの『女の平和』のことは何度も聞いているにも関わらずはっきりとした記憶はないのですが、おそらく中学校の冗談が多かった伊藤先生の授業からではないかと思います。アテナイとスパルタの戦いを終わらせるために、女たちがセックス・ストライキをおこなうという話でした。
第2次ペロポネソス戦争でアテネ海軍はシチリア遠征に失敗して全滅してから2年目、戦争を継続しようとした指導者に対し、この喜劇は上演されたのです。舞台はアテネのアクロポリスで女主人公リューシストラテー(“戦争をつぶす女”の意味)はギリシア各地から集まってきた女たちに性的ストライキを呼びかけ、アテネとスパルタの代表が握手するという大団円を迎えたという劇です。
「戦争は男の仕事だ、女は戦争に何の関係もない」という役人に対して、リューシストラテーは「どういたしまして、この不浄者め、あたしたちは戦争の二倍以上の被害者ですよ。第一に子供を生んで、これを兵士として戦争に送り出した」ときり返します。
さらに「過ぎたことをとやかく言うな」という役人に、リューシストラテーは「第二に歓喜にみちた青春を享楽すべきそのときに、軍旅のために空閨を守っています。ほら、あのことを気にもかけない、わたしどもは乙女らが閨(ねや)のなかで未婚のまま老いていくのがたまらない」と答えたとういうのです。(ウィキペディア:アリストパネース『女の平和』高津春繁訳:1951岩波文庫より)
男性中心の戦争と女奴隷ヘタイア・ポルナイの売春制度に対して、女性たちが果敢に抵抗したという喜劇が上演されたということは、古代アテナイの支配層(市民)の民主制と母系制社会の女性優位の伝統を示しているといえます。
日露戦争で旅順攻撃に参加した弟を思う与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ(旅順口包囲軍の中に在る弟を歎きて)」の第1・第5をアリストファネスに敬意を表して掲載しておきます。
男の「戦争と平和」ではなく、母系制社会の時代に歴史を戻し「女の平和」こそ追及すべきと考えます。
4 生活者の女の宗教と戦士の男の宗教:「終末宗教」と「現世宗教」
世界の宗教には死と死後の世界を考える戦士から生まれた「終末宗教」と、生命の誕生と成長、豊かな生活を願う「現世宗教」があるように思われます。現時点では仮説的考察ですが、わが国では安産や誕生、七五三などの成長、結婚などは神社が担い、殺しを生業としてきた武士階級の徳川幕府により葬式や死後の供養は寺院が担うという役割分担体制がとられ、明治維新後は結婚式は教会でという新たな分担もみられます。
死者の霊は天に昇り、子孫に受け継がれると考えた縄文人の宗教観を受け継ぎ、大国主が確立した死ねば誰もが神として祀られるとした八百万神信仰のわが国では、釈迦やその弟子たち、さらにはキリストも同列の神として祀ることに違和感はなかったのです。
私の祖父母の家など大黒柱のそばに神棚が、桟敷奥には仏壇があり、竃や水瓶の上には神社のお札がはってあり、庭には祠が祀ってあってお供えを行っており、お盆には墓参りの後に祖先が祀ってあるという神社に連れていかれ、幼児の時、祖母に「ご先祖様はいったいとこにいるんや」と問いましたが、聡明であった祖母から納得できる返事はありませんでした。
ロシアによるウクライナ侵攻がはじまり、楽天ブログで「NoWar2022」を書いてきましたが、「19 プーチンが目指す『聖なるロシア帝国』『神が護りし祖国』(220428)」「21ロシア正教会首長プーチンの宗教戦争(220501)」「22 『サピエンス全史』批判から戦争を考える(220507)」「25 『イワンのばか』の大悪魔はロシア正教会総主教(220508)」「27 ユダヤ教聖典の『旧約聖書』と『タルムード』の残虐性(220513)」などを書いてきましたが、「26 ロシア兵の残虐性は『旧約聖書』ゆずり?(220510)」では次のように書きました。
ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』を批判する中で、カナン征服にあたってユダヤ人が異教徒殺戮を正当化するために「ヤハウェ神」を発明し、キリスト教の神「ゴッド・キリスト・精霊」、イスラム教の「アッラー」もそれを受け継ぎ、殺戮戦争を神の意志として行う文化が根強く西欧と東欧・中央アジアに残っていると考えるようになっています。
ユダヤ教のこの「他民族殺戮神」の発明を誤魔化すために『サピエンス全史』を書いたユヴァル・ノア・ハラリ氏に対し、同じユダヤ系でありながらジャレド・ダイアモンド博士は『昨日までの世界 下』で旧約聖書の「申命記」(神命記を申命記としたのは、神=アマテラスと区別したのでしょう)を異教徒に対する残忍な内容を批判しています。
私はダイアモンド博士の本を読むまで申命記のこのような内容は知りませんでいたが、ネットには申命記第20章が多く掲載されており、キリスト教徒にとっては常識なようです。申命記20章 | 大田原キリスト教会 (otawara-church.com)より引用します。アンダーラインは筆者です(以下同)。
町を攻略しようと、あなたがその町に近づいたときには、まず降伏を勧めなさい。降伏に同意して門を開くなら、その中にいる民は、みな、あなたのために、苦役に服して働かなければならない。
もし、あなたに降伏せず、戦おうとするなら、これを包囲しなさい。あなたの神、主が、それをあなたの手に渡されたなら、その町の男をみな、剣の刃で打ちなさい。
しかし女、子ども、家畜、また町の中にあるすべてのもの、そのすべての略奪物を、戦利品として取ってよい。あなたの神、主があなたに与えられた敵からの略奪物を、あなたは利用することができる。
非常に遠く離れていて、次に示す国々の町でない町々に対しては、すべてこのようにしなければならない。しかし、あなたの神、主が相続地として与えようとしておられる次の国々の民の町では、息のある者をひとりも生かしておいてはならない。すなわち、ヘテ人、エモリ人、カナン人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人は、あなたの神、主が命じられたとおり、必ず聖絶しなければならない。それは、彼らが、その神々に行なっていたすべての忌みきらうべきことをするようにあなたがたに教え、あなたがたが、あなたがたの神、主に対して罪を犯すことのないためである。
さらにヨシュア記は次のように記しており、一部を紹介します。ヨシュア記(口語訳) - Wikisource 高校時代でしょうか、「ジェリコの戦い:Joshua fit the battle of Jericho」を何も知らずにジャズナンバーとして歌っていましたが、侵略を鼓舞する歌だったのです。
わたしのしもべモーセは死んだ。それゆえ、今あなたと、このすべての民とは、共に立って、このヨルダンを渡り、わたしがイスラエルの人々に与える地に行きなさい。
あなたがたが、足の裏で踏む所はみな、わたしがモーセに約束したように、あなたがたに与えるであろう。
あなたがたの領域は、荒野からレバノンに及び、また大川ユフラテからヘテびとの全地にわたり、日の入る方の大海に達するであろう。・・・
ヨシュアが民に命じたように、七人の祭司たちは、雄羊の角のラッパ七本を携えて、主に先立って進み、ラッパを吹き鳴らした。主の契約の箱はそのあとに従った。
そして町にあるものは、男も、女も、若い者も、老いた者も、また牛、羊、ろばをも、ことごとくつるぎにかけて滅ぼした。
そして火で町とその中のすべてのものを焼いた。ただ、銀と金、青銅と鉄の器は、主の家の倉に納めた。・・・
イスラエルびとは、荒野に追撃してきたアイの住民をことごとく野で殺し、つるぎをもってひとりも残さず撃ち倒してのち、皆アイに帰り、つるぎをもってその町を撃ち滅ぼした。
その日アイの人々はことごとく倒れた。その数は男女あわせて一万二千人であった。
ヨシュアはアイの住民をことごとく滅ぼしつくすまでは、なげやりをさし伸べた手を引っこめなかった。
ただし、その町の家畜および、ぶんどり品はイスラエルびとが自分たちの戦利品として取った。主がヨシュアに命じられた言葉にしたがったのである。
かつて世界中が母系制社会であった時代に見られた女神信仰は男中心の戦士の宗教に置き換えられ、ユダヤ教聖典の「旧約聖書」はキリスト教・イスラム教に受け継がれ、「人間中心思想(動物殺戮)」「男中心思想(女・子どもの奴隷化)」「選民思想(他民族・他部族征服)」「殺人正当化思想(神の命令による殺人奨励)」「奴隷化肯定思想(女・子ども支配)」「略奪・詐欺・高利貸思想(男による経済支配)」「正教一致の征服思想(男による宗教・政治支配)」により世界の帝国主義支配とアフリカ・アジア人の奴隷化を進めたのでした。ヨーロッパの女神信仰は「魔女裁判」により抹殺されたのです。
アメリカ軍の日本の大都市を焼き尽くす戦略爆撃と原爆投下はまさにこの旧約聖書の神の教えにのっとったものであり、同じようにウクライナ戦争もまた、プーチンが作ったロシア国歌『祖国は我らのために』で歌われる「1.ロシア我等が聖なる帝国 ロシア最愛の祖国 強大な意思の力 偉大なる栄光 常しえに誉れ高くあらん」「2.南方の海から北極圏まで至る 我等の森林に原野 世界で唯一無二の存在 神が護りし祖国よ!」で歌われているように、『旧約聖書教』の政教一致のプーツァーリ・プーターリンにより引き起こされたという以外にないと私は考えています。
この「終末宗教」の影響は強く、プーチン大統領は2018年に「ロシアが世界に存在しないとしたら、なぜ世界が必要?」と述べ、2022年2月24日には「外部からの邪魔を試みようとする者は誰であれ、そうすれば歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」と、メドヴェージェフ前大統領もまた「(もしクリミアを攻撃したら) 終末の日が訪れる」(2022年7月18日)と核戦争の恫喝を行っています。
人類誕生からの母系制社会の長い歴史に照らすなら、わずか3000年前からの男の戦士の終末型宗教の軛から離れ、生命をなによりも重んじる現世型宗教、女神信仰を見直す必要があると考えます。
5 縄文社会研究からの母系制社会論
全国各地の縄文遺跡の妊娠土偶や女神土偶、環状列石・円形石組立棒・石棒(金精)、茅野市の6000~5500年年前の世界最古級の神山天神信仰を示す阿久(あきゅう)・阿久尻(あきゅうじり)遺跡の神名火山(神那霊山)の蓼科山(女神山)を向いた立石・石列と巨木神殿などは、縄文社会が母系制社会であることを示し、しかもその伝統は紀元1~2世紀のスサノオ・大国主7代の建国から女王国・邪馬壹国に続き、現在も女神を祀る御山信仰として各地に残っているのです。
全世界の母系制社会の解明に向けて縄文社会研究は最先端にあり、それは男系社会の行き詰まりである戦士の男の「強制民主主義」「命を奪う平和」「終末宗教」の行き詰まりを超える未来像を考えるヒントを与えることが期待されます。
□参考□
<本>
・『スサノオ・大国主の日国(ひなのくに)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)
・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)
<雑誌掲載文>
2012夏「古事記」が指し示すスサノオ・大国主建国王朝(『季刊 日本主義』18号)
2014夏「古事記・播磨国風土記が明かす『弥生史観』の虚構」(前同26号)
2015秋「北東北縄文遺跡群にみる地母神信仰と霊信仰」(前同31号)
2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(前同40号)
2017冬「スサノオ・大国主建国論1 記紀に書かれた建国者」(『季刊山陰』38号)
2018夏「スサノオ・大国主建国論2 「八百万の神々」の時代」(『季刊山陰』39号)
2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)
2018夏「スサノオ・大国主建国論3 航海王・スサノオ」(『季刊山陰』40号)
2018秋「『龍宮』神話が示す大和政権のルーツ」(『季刊 日本主義』43号)
2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(前同44号)
2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(前同45号)
<ブログ>
ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina
帆人の古代史メモ http://blog.livedoor.jp/hohito/
ヒナフキンの邪馬台国ノー http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/
霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/