ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート184 乳児からみた人類進化と子育て家族形成

 サルからヒトへの進化について、私は子どもの誕生から成長の過程を辿って推定するという方法論を考えています。

 現役時代に木登り遊びのボランティア活動をやっていたとき、なぜ子どもが木登りが好きなのか、穴掘りが好きなのかなどについて、私は「動物進化を追体験する子どもの遊び」という仮説から考察したことがあったのですが、人類進化についても同じ方法で考察してみました。

 

1 子どもの遊びからみた人類進化

 「縄文ノート87 人類進化図の5つの間違い」210723→0801」)で私は次のように書きました。

 

 2004年には「動物進化を追体験する子どもの遊び」(日本子ども学会チャイルド・サイエンス 懸賞エッセイの奨励賞)を書きましたが、幼児の頃からの孫のいろんな遊びを観察し、なぜ子供は幼児の頃から水遊びや木登りが大好きなのか考えていると、表1のように子どもの遊びが「サカナ型」「カエル型」「トカゲ型」「ネズミ型」「サル型」「ヒト型」に分類でき、そこから「子どもの遊びは動物進化を追体験している」と考えるようになりました。

  このような子ども時代の遊びこそが人類だけでなくすべての動物の進化を促したのであり、それは魚類、両生類、爬虫類、哺乳類へと受け継がれ、ヒトのDNAに全て本能として残したと考えられます。

 うっかり目を離すと歩き始めたばかりの孫が川の中に入ってあわてたことが何度かあり、「いないいないばあ」が大好きな乳幼児、穴掘りや囲いの外に穴から石を入れて出すことをいつまでも止めない遊び、滑り台を腹から滑り降りる遊び、ジャングルジムやブランコでいつまでも遊んでいる子どもなど、両生類や爬虫類、穴倉居住のネズミ、樹上のサルなどのDNAが子どもの中に残っているとしか考えられませんでした

 

 この子どもの遊びの分析から私は人類について「メスと子ザルが進化を主導した」という仮説を考えましたが、さらに霊長類研究に着目して次のように書きました。

 

2 オス主導進化か、メス・子ザル主導進化か?

 「人類進化図」で検索すると、世界各国ではいろんな進化図が書かれていますが、ほぼすべてがオスの進化図であり、「メスと子ザルが進化を主導した」という仮説はまったく検討されていません。

 最初はネットで調べ、次にチンパンジーボノボ(ピグミーチンパンジー、現地名ビーリャ)研究の黒田末寿氏らや、ゴリラ研究の山極寿一氏の本にざっと目を通しましたが、類人猿や狩猟民族の食生活、採取・漁撈・狩猟について詳しく観察・記録されているものの、熱帯雨林でのサルの母子主導の「糖質魚介食進化説」「二足歩行説」「家族形成説」などからの「母系制社会説」については、思考の外に置いています。オスが石器武器で二本足で狩りをしてメスに肉を手で運んで贈って家族ができ、タンパク質をとって頭脳が大きくなった、という狩猟・肉食進化説しか頭にないようです。

 黒田末寿氏は『人類の起源と進化』において、ボノボに見られる「メスと息子、メス同士の強い絆」や「メスの集合性、オスの分散性」「メス同士、母から子への食物分配」「母親と息子が母系家族的集団をつくる」「集団内の母・息子集団と集団間の近隣関係に見られる重層構造化の萌芽」「乱婚傾向が強く、メスに無排卵発情が多く発情メスの比率が高い(ニセ発情:古市剛史)」「性皮の膨張」などと述べながら、「ヒト社会の場合、全体的には父系が優勢といえよう。これらのことから、家族の出現の時期はともかく、人類祖先の社会集団は父系的傾向が強かったと仮定してよい」とボノボ観察・分析とは正反対の結論を導いており、その根拠である「父系が優勢」「父系的傾向が強かった」というのは単なる推測、仮定にすぎないのです。

 「ボノボの生態からヒト誕生が母系制か父系制かを推定する」という方法論ではなく、「人間社会を父系制と仮定してボノボをみる」という逆立ちした男性優位思想の偏向が見られます。 

 また、黒田氏は「採食技術としての道具使用は雌の方が上手でかつ長時間行う。これらは採集滑動に相応し、採集仮説で強調される女による採集活動での道具使用の発達の根拠はここにある」と述べ、道具使用を通した手の発達がメス主導であったことを認めながら、人類の誕生がメス・子ザル主導であった可能性を検討しておらず、フィールドワークで貴重な成果を残しているものの、残念な非科学的結論に陥っていると言わざるをえません。

 それは後輩の山極寿一氏のゴリラ研究も同じであり、京大のサル・類人猿研究のオス中心主義の伝統のようであり、女性研究者主導にならないと京大のサル・類人猿研究はまともな科学にはならないのではないでしょうか。

 

 そして「肉食・狩猟・闘争・戦争文明史観」(欧州中心文明史観:オス主導進化説)を批判し、「生命・生活文明史観」(非欧州文明史観:メス・子ザル主導進化説)を提案しました。下記の表は、一部、訂正しています。

 

 

2 乳児からみた人類進化

 この子どもの遊びの分析は私の長男の1歳児と3歳児の孫の観察からであったのに対し、昨年、晩婚の次男の0歳児の孫がほぼ1か月ごとにわが家にきたので、その観察からさらに乳児について考察を進めました。

 まず驚いたのは3カ月目にアイコンタクトがとれ、いろいろと声をかけると初めて少し笑ってコミュニケーションがとれたことです。

 4カ月目になると、話しかけると、笑顔だけでなく、「ウー、ウー」というような声で反応しました。また、年寄りのしわがれ声にもかかわらずシューベルトブラームスの子守唄を歌ってやると、気持ちよさそうに眠りに入るのです。この子守歌効果は、私の4人の子ども、8人の孫の乳幼児段階の全てに共通しており、サルと親子とは異なるヒトの特性といえます。

 5か月目の大きな変化は、姉(小2)、兄(3歳、5歳)たちが遊んでいる動きをずっと目で追いかけるようになり、食事時になると匂いに呼応して指を盛んになめ始めました。

 6か月目になると、抱いていると膝の上で立とうとし、後ろ抱きが不満で対面で相手をしないと満足しないようになり、ソファで抱いているより場所を変えたり外を見せた方が機嫌がいいのです。

 7か月目になると、それまで別々の動きであった両手が連携でき、指をにぎりあうなどの動きができるようになりました。

 8か月目になると、「ウー、ウー」などの単音だけでなく、初めて「マンマ」「ママ」らしい単語を発し、盛んに話そうとします。

 以上は短時間の、それも時々の体験ですが、乳児の知能の発達が急速に進むことが確認できたのは初めての経験でした。母子のコミュニケーション(識別―応答)と身近な姉・兄などの行動や会話の観察や模倣こそが知能の発達に大きな役割を果たすのではないか、と感じました。3歳児の孫の動きを見ても、5歳、7歳の兄・姉がしていることにいつも無理やりに混じっていき、喧嘩になることが多く、模倣学習が知能の発達に大きな役割を果たすと感じました。

 それは子犬・子猫同士がじゃれあうのと同じとも言えますが、犬・猫やサルと人間の決定的に大きな違いは、歌と会話・おしゃべりにあるのではないか、と考えます。「楽しい」こととオッパイ(糖質DHA食)こそが、人類の頭脳を進化させたのではないか、と考えます。―縄文ノート「107 ドーパミン からの人類進化論―窮乏化進化か快適志向進化か」「182 人類進化を支えた食べもの」参照

 

 「気候変動で熱帯雨林の食料が乏しくなり、サバンナに出て草食動物の死肉をあさり、狩りをするようになって人類は進化した」というようなオス主導の「危機進化説」「苦難進化説」「肉食・狩猟・闘争・戦争進化説」が欧州人、旧約聖書教の人たちは好きであり、マルクス主義者も「窮乏化論」「階級闘争史観」ですが、メス・子主導で美味しいこと、楽しいことを追及したことで人類が進化したという「美食進化説(糖質DHA食進化説)」「快適・快楽進化説」「共同進化説」こそ検証すべきと考えます。

 「縄文ノート25 『人類の旅』と『縄文農耕』、『3大穀物単一起源説』」では「2019年11月からNHKスペシャルで始まった食の起源の「第1集『ご飯』~健康長寿の敵か?味方か?~」によれば、アフリカの旧石器人の摂取カロリーの5割以上が糖質で主食が肉というのは間違いであり、でんぷんを加熱して食べると固い結晶構造がほどけてブドウ糖になって吸収され、その多くが脳に集まり、脳の神経細胞が増殖を始めるとされています。火を使うでんぷん食に変わったことにより脳は2倍以上に巨大化したというのです。肉食獣の脳が大きいこともなければ、脳の中は筋肉ではないのですから、「肉食進化説」は棄却されるべきでしょう。

 さらに、「第3集『脂』~発見!人類を救う“命のアブラ”~」ではオメガ3肪酸(青魚・クルミ・豆類など)が脳の神経細胞ニューロン)を形作り、樹状突起同士をシナプスニューロン間の接合部)で結び付け、高度な神経情報回路を生み出すのを促したとされています。

 猿から人間への頭脳の深化には魚食と穀類の組み合わせが有効であったのであり、海岸・河川地域での魚介類やイモ・イネ科穀類・ドングリ類の摂取こそが人類を猿から進歩させたのです」と書きました。

 「縄文ノート85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか」ではボノボに見られるようなメス同士と子の群れでの採集活動や食物分配、子ども同士遊びなどはコミュニケーションと言語能力を高め、糖質とDHA摂取により急速に頭脳の発達を促したと考えられます」と書き、「縄文ノート88 子ザルからのヒト進化説」では、「脳の重量が0~4歳(特に0~2歳)に急増すること、前頭前野(思考や創造性を担う脳の最高中枢)のシナプスの密度のピークが4歳であること、ヒトのおっぱいの糖質の割合が牛の2倍と多いことなどから考えると、母親と行動していた子ザルこそ人類進化で大きな役割を果たした可能性、ひょっとしたら主役であった可能性です」「ヒトが話せるようになったのは、単に「コミュニケーションの必要性」だけでなく、「おしゃべりや歌」の遊びがあったと考えます。子どもの道具遊びや追いかけっこなどとともに、「遊び」は人類進化に大きな役割を果たしたのではないでしょうか」などと書きましたが、母子の乳児段階の濃密な言語・歌コミュニケーションと子ども同士の刺激(観察と真似による教育)こそが、人類の知能の発達に大きな役割を果たしたと考えます。

 これまで幼児と児童の遊びには注目していましたが、0歳児のおっぱい(糖質DHA食)と濃厚な母子言語コミュニケーション、年長児の遊びや言葉の観察・模倣が乳児の脳の発達にとって重要であることに初めて気づきました。

 

 

 霊長類学や文化人類学民族学からの人類起源説は、栄養学や乳幼児・児童の発達・成長と合わせて総合的に分析されるべきであり、欧州中心史観の「肉食・狩猟・戦争進化説」「男主導進化説」を見直すとともに、人類誕生史からの「三つ子の魂百まで」の乳幼児期子育ての重要性が再確認されなければと考えます。

 

3 子育て共同からの家族形成

 サルからヒトへの進化について、私はオス主導の「危機進化説」「苦難進化説」「肉食・狩猟・闘争・戦争進化説」ではなく、メス・子主導の「美食進化説(糖質DHA食進化説)」「快適・快楽進化説」「共同進化説」を提案しましたが、家族起源もまたメス・子主導と考えます。

 サルとは異なりヒトは家族を形成したことにより生存率を高め、教育機能を高めることができたのであり、家族誕生は人類進化に決定的に重要な役割を果たしたと考えます。

 私たち夫婦は1960・70年代の「同棲時代」のはしりで、「政略結婚」ならぬ「性欲結婚」とからかわれたものですが、性欲だけなら同棲でよく、家族形成にはならなかったと思います。結婚は妻が妊娠したことによる「できちゃった婚」であり、子育てを共同でしなければというのが私の意識でした。

 これまで家族の起源については、オスがサバンナに出て大型草食動物の死肉や狩猟により肉をえて、それを両手で抱えてメスのもとに行き、食欲と性欲を交換することにより家族が生まれたという、オス主導の「二足歩行、手機能向上、食欲性欲交換」家族誕生説が通説でしたが、このような私自身の経験とは合いません。

 「縄文ノート88 子ザルからのヒト進化説」(210728→0815)では、ケニアのアビシニアコロブスとブラジルのライオンタマリンという2つのサルの子育て共同からの家族誕生論をまとめています。

 

 メスの子育てを他のメスが助けるケニアのアビシニアコロブスと、オスが助けるブラジルのライオンタマリンは前者はオス主導、後者はメス主導の群れですが、いずれも子育てと群れの天敵からの防衛を通した共同体と家族形成の同時進行の萌芽が見られ、コンゴボノボからヒトへの進化の道筋を示しているように思います。いずれも熱帯雨林に住みながら、アビシニアコロブス・ライオンタマリンとボノボの大きな違いは、後者が地上・樹上生活をしている点にあり、ここに人類誕生の鍵があるように思います。

 草原での狩猟と肉食によって共同体と家族が生まれた、というフィクションは棄却され、共同体・家族形成と言語コミュニケーションによる頭脳発達が先行し、その後に小川・沼での二足歩行と手機能発達が進み、糖質・DHA食によりさらに脳機能の向上があり、最後に草原に進出して体毛の消失になった、と考えられます。

 

 

 オスはメスの採集・漁労による食事の間、子どもの面倒をみるとともに、時には肉を提供し、用心棒として家族を守ることにより、子どもの生存率を高めるとともに、さらに重要なことは、母子、父子、子ども同士の楽しいコミュニケーション、おしゃべりと模倣教育による知能向上を実現できたと考えます。

 糖質食は樹上生活で果物を食べることができるサルも可能ですが、DHA食となると水を怖がるサルには不可能であり、地上に降りで魚介類や昆虫などを食べるようになったサルこそがヒトへの進化を辿ることができ、さらに家族形成により乳幼児期の頭脳の発達を実現できたと考えます。

 

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなのくに)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

 ・『奥の奥読み奥の細道』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2012夏「古事記」が指し示すスサノオ大国主建国王朝(『季刊 日本主義』18号)

 2014夏「古事記播磨国風土記が明かす『弥生史観』の虚構」(前同26号)

 2015秋「北東北縄文遺跡群にみる地母神信仰と霊信仰」(前同31号)

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(前同40号)

 2017冬「スサノオ大国主建国論1 記紀に書かれた建国者」(『季刊山陰』38号)

 2018夏「スサノオ大国主建国論2 「八百万の神々」の時代」(『季刊山陰』39号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018夏「スサノオ大国主建国論3 航海王・スサノオ」(『季刊山陰』40号)

 2018秋「『龍宮』神話が示す大和政権のルーツ」(『季刊 日本主義』43号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(前同44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(前同45号)

<ブログ>

 ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

 帆人の古代史メモ          http://blog.livedoor.jp/hohito/

 ヒナフキン邪馬台国ノート      http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

 霊(ひ)の国の古事記論       http://hinakoku.blog100.fc2.com/