ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート115 鳥語からの倭語論

 私が録画してよく見る番組の1つがNHKの『サイエンスZERO』ですが、2021年12月5日放映の「鳥の言葉を証明せよ!“動物言語学”の幕開け」は人語誕生にもつながる興味深い内容でした。

 『サイエンスZERO』2020年10月25日放送の「“羽毛のある類人猿” カラス 驚異の知力に迫る」、『日経サイエンス』2020年8月号の論文「もうトリ頭とは言わせない 解き明かされた鳥の脳の秘密」についても触れ、人語がサバンナの平原ではなく熱帯雨林で生まれたという私の説や、「主語―動詞-目的語」言語構造からの倭語のルーツについて検討しています。

 

1.鈴木俊貴京大白眉センター特定助教の鳥語の発見

 「世界初! 『鳥の言葉』を証明した“スゴい研究”の『中身』(サイエンスZERO) | (現代ビジネス | 講談社 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/90014?imp=0から要約します。

 鈴木氏は16年間、シジュウカラの鳴き声を軽井沢の森の中で研究し、巣箱で子育て中のメスが『チリリリリ(おなかがすいたよ)』と鳴くと、オスは『ツピー(そばにいるよ)』と答えて食べ物を持ってきたり、天敵には『ジャージャー(ヘビ)』『ヒーヒーヒー(タカ)』『ピーツピ(カラス)』と使い分けており、それがコミュニケーションの「言葉」であることを証明しました。

 その方法は「(1)見せる」「(2)聞かせる」「(3)サーチイメージ」という3段階の実験でした。

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 「(1)見せる」」実験ではヘビのレプリカやカラスやテンなどの天敵の剥製を巣箱の上に置いてシジュウカラの行動を観察すると、ヘビを見た時だけシジュウカラは、けたたましく『ジャージャー』と鳴きました。

 「(2)聞かせる」実験は、前もって録音しておいた『ジャージャー』の鳴き声をスピーカーから流して聞かせるとシジュウカラは、巣箱の下や地面に目を向けてヘビを探すような仕草をし、『ジャージャー』は「ヘビ」を示す単語であるとわかりました。

 ここまでは多くの人も考え付くと思いますが、「(3)サーチイメージ」実験は私は思いつきませんでした。シジュウカラが『ジャージャー』と聞いたとき、ヘビのイメージを頭に思い描いているかどうかを調べるのです。

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 その方法は、『ジャージャー』という鳴き声をスピーカーで聞かせながら、ひもをつけた棒を木の幹に沿ってをはい上がるヘビのように引き上げたのです。そうすると12羽中11羽のシジュウカラが木の棒に接近してそれを確認したのです。そして、そのような確認行動はほかの鳴き声を聞かせた実験では、ほとんど見られませんでした。シジュウカラは『ジャージャー』という鳴き声を聞いたとき、頭の中にヘビの姿(サーチイメージ)を思い描き、それを棒に当てはめたことでヘビと見間違えたのだと考えられます。

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  2008年ヘビに対して『ジャージャー』鳴くのを観察し、サーチイメージを論文化したのが2018年で、10年以上かけた研究の成果です。

 さらに、シジュウカラが「単語」だけではなく、「文章」を作れることまで発見しました。

 鈴木氏が注目したのは『ピーツピ・ヂヂヂヂ』と聞こえる鳴き声で、『ピーツピ』は仲間に危険を伝える「警戒しろ」で、『ヂヂヂヂ』は「集まれ」で、『ピーツピ・ヂヂヂヂ』は「警戒しながら集まれ」という意味だと証明しました。

 鳴き声の語順をひっくり返し『ヂヂヂヂ・ピーツピ』という音声を聞かせる実験ではシジュウカラは警戒することも、集まることもしなかったのです。彼らは、語順を理解して鳴き声の意味を解読しており、単に『ピーツピ・ヂヂヂヂ』に反応しているのではなく、『ピーツピ(警戒しろ)』、『ヂヂヂヂ(集まれ)』を合成した行動を取っており、2つの言葉を組み合わせた「文章」、組み合わせの「ルール(文法)」を理解していることが示唆されました。

 そこで「初めて聞いた鳴き声の組み合わせ(文章)を理解する」というさらに難易度の高い実験を鈴木氏はルー大柴さんの「ルー語」からヒントをえて実験したのです。

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 ルー語とは「逆鱗にタッチ」「藪からスティック」のように日本語の文章の一部を英語に置き換えるもので、初めて聞いても組み合わせ(文法)を理解していると意味は通じるのです。

 軽井沢ではシジュウカラはコガラと一緒に群れを作っており、彼らはお互いの鳴き声の意味を理解していました。「集まれ」はシジュウカラ語では『ヂヂヂヂ』ですが、外国語に相当するコガラ語では『ディーディーディー』ですが、シジュウカラはどちらの鳴き声にも近づいていくのだといいます。

 そこで、シジュウカラの『ピーツピ・ヂヂヂヂ(警戒・集まれ)』の『ヂヂヂヂ(集まれ)』の部分をコガラ語の『ディーディーディー(集まれ)』に置き換え、鳥バーションのルー語を作り出して聞かせてみたところ、シジュウカラはちゃんと警戒しながらスピーカーに近づき、天敵を探して追い払うかのような行動を示したのです。しかも語順をひっくり返すと、また意味が通じなくなったというのです。

 シジュウカラは『ピーツピ・ヂヂヂヂ(警戒・集まれ)』を文章として理解していたのです。

 詳しくは前掲のホームページか『サイエンスZERO』、下記論文を参照してください。https://www.pnas.org/content/115/7/1541

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982217307662

 

2.鳥語・人語は平原ではなく森で生まれた

 鈴木氏のこれらの実験からえた重要な考察は、森という生息環境でシジュウカラたちの言葉の進化が生まれたという主張です。鳥と鳥との距離が10メートル20メートル離れていることもよくあって。互いに目で見えない間隔で情報を伝え合うためにただ『来て』ではなくて『天敵がいるから警戒しながら近づいて』と、複雑な情報を同時に伝える必要があったというのです。一方、ヒマラヤなどのすごく開けた場所にすんでいるシジュウカラの仲間はお互いを目で確認できるから、かなり単純な声しか出せないというのです。

 私も毎朝の犬散歩の時、鳥を見つけるとよく写真を撮るのですが、10~20m離れていても眼が合うと鳥は逃げるのです。そのため、鳥を見ないようにして腰のあたりでファインダーを起こしてピントを合わせ、カメラだけ鳥に向けて写真を撮るのですが鳥は必ず人の目を見ていることに気づいていました。また、手を振る石でも投げられると思うのか、逃げるのです。「目は口ほどに物を言い」や「ボディランゲージ」のコミュニケーションは鳥同士にも当てはまるのです。

 互いに見えない森の中だからこそ、コミュニケーションの必要から鳥語が生まれたのであり、人語も同じ可能性が高いのです。

 サバンナの平原での狩りのためのコミュニケーションなら、手で前、左右、突進などの合図すればいいのです。か熱帯雨林での母子・メス同士・子ども同士のサルのコミュニケーションで言語が生れた、という私の以下のような主張を鈴木氏の鳥語の研究は裏付けてくれました。

 コンゴ(ザイール)の人たちはティラピアナマズ・ウナギ・ナイルパーチ・小魚・カニ・エビ・オタマジャクシ・カエル・ヘビ・ミズオオトカゲ・カメ・スッポン・ワニなどを食べており(安里龍氏によれば最も美味なのはミズオオトカゲ)、一般的な漁法は女性や子どもたちが日常的に行う『プハンセ(掻い出し漁:日本では田や池の水を抜く「かいぼり」)』」(縄文ノート84 戦争文明か和平文明か)「森の生活をもっとも安定させてきたのは、コンゴ盆地のなかを毛細血管状に発達した大小の河川で捕れる魚類なのである。とくに女性と子どもたちが日常的に従事するプハンセ(注:搔い出し漁)を通して供給される動物性たんぱく源の安定した補給が大きく寄与している言える。もっともシンプルであるが、捕獲がゼロということはありえない、もっとも確実な漁法であるからである。・・・(3~4月)種類数も29種ともっとも多くなる。水生のヘビ類やワニの捕獲がこの時期に多いのも、その活動が活発になることを裏付けるものである。一方、女性や子どもたちが食用幼虫類の採集に集中する8~9月は、魚の摂取頻度が12種ともっとも少なく、3~4月の半分以下になる」(縄文ノート92 祖母・母・姉妹の母系制)というのであり、視界の悪い熱帯雨林でサルたちが地上に降りて小川や沼、湿地帯で水生動物やイモ・マメ・穀類などを食べている時にこそ、鳥語と同じように親子・仲間と連絡を取り合う猿語が生まれ、さらに水に浸かって直立歩行を行うようになり咽頭が下がって共鳴空間が大きくなって複雑な発音ができるようになって人語へと発展したと考えられます。

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<人類の言語誕生についてのこれまでの考察>

① 坂根を叩いて音を出すとピャアピャアピャアと返事する。飼育したボノボは人間の言葉を理解する。(縄文ノート70 縄文人のアフリカの2つのふるさと)

② ボノボに見られるようなメス同士と子の群れでの採集活動や食物分配、子ども同士遊びなどはコミュニケーションと言語能力を高め、糖質とDHA摂取により急速に頭脳の発達を促したと考えられます。(縄文ノート85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか)

③ サルからヒトへの言語能力の発達には、採集・分配・子育て・生活の共同・分担を通した「メス同士のコミュニケーションとおしゃべり遊び」と「メスと子ザルのコミュニケーションとおしゃべり」「子ザル同士のコミュニケーションとおしゃべり」の3つが重要な役割を果たしたと考えます。ヒトが話せるようになったのは、単に「コミュニケーションの必要性」だけでなく、「おしゃべりや歌」の遊びがあったと考えます。子どもの道具遊びや追いかけっこなどとともに、「遊び」は人類進化に大きな役割を果たしたのではないでしょうか。・・・

 メスの子育てを他のメスが助けるケニアのアビシニアコロブスと、オスが助けるブラジルのライオンタマリンは前者はメス主導、後者はオス主導の群れですが、いずれも子育てと群れの天敵からの防衛を通した共同体と家族形成の同時進行の萌芽が見られ、コンゴボノボからヒトへの進化の道筋を示しているように思います。いずれも熱帯雨林に住みながら、アビシニアコロブス・ライオンタマリンとボノボの大きな違いは、後者が地上・樹上生活をしている点にあり、ここに人類誕生の鍵があるように思います。草原での狩猟と肉食によって共同体と家族が生まれた、というフィクションは棄却され、共同体・家族形成と言語コミュニケーションによる頭脳発達が先行し、その後に小川・沼での二足歩行と手機能発達が進み、糖質・DHA食によりさらに脳機能の向上があり、最後に草原に進出して体毛の消失になった、と考えられます。(縄文ノート88 子ザルからのヒト進化説)

④ 共同体・家族社会の成立はボノボのようにメスたちの子育ての助け合いと子ザルたちの遊びから生まれ、発情期だけでなくセックスをすることにより、メスザルはオスザルに子育て中の食料確保に協力させるとともに、用心棒としたと考えられます。(縄文ノート89 1段階進化説から3段階進化説へ)

 

3.重要なのは文章構造

 私が縄文人のルーツに関心を持ったきっかけは若狭の鳥浜遺跡のヒョウタンの原産地が次女が青年海外協力隊員で出かけていたニジェール川流域であったことからですが、さらに日本列島への移動ルートについては、ヒョウタンを水瓶・ペットボトルとしたイカダでの熱帯の「海の道」ルートであり、さらにはイネなどのルーツと「主語-目的語-動詞」言語族の分布でした。―縄文ノート「25 『人類の旅』と『縄文農耕』、『3大穀物単一起源説』」「28 ドラヴィダ系海人・山人族による稲作起源論」「42 日本語起源論抜粋」参照

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 日本語が「倭音倭語・呉音漢語・漢音漢語」の3層構造(現在は英語が加わわった4層構造)でありながら、インドシナ語や中国語のように「主語―動詞-目的語」構造でないことは重要で、言語コミュニケーションにおいては、語順が重要であったことを示しています。

 鳥語において、シジュウカラが『ピーツピ・ヂヂヂヂ』(ピーツピ:警戒しろ、ヂヂヂヂ:集まれ)の語順をひっくり返し『ヂヂヂヂ・ピーツピ』だと警戒することも、集まることもせず、語順のある「文章」「文法」として理解していることを鈴木氏が証明したことは「人語=ルー語」にも当てはまるのではないか、と思います。

 「逆鱗にタッチ」「芸はボディを助ける」「鯖をリードする」なら「逆鱗にふれる」「芸は身を助ける」「鯖を読む」と理解できても、「タッチ逆鱗に」「ボディを助ける芸は」「リードする鯖を」は理解できるか、ということです。

 インド・アフガニスタンなどを植民地化したイギリスやアーリア人説を唱えたナチスなどは「インド・ヨーロッパ語族」などと言うフィクションを作り上げましたが、これは日本に定着している呉音漢語・漢音漢語・英語などの単語から日本を中国語族・英語語族とするのと同じトンデモ説であり、文章構造からみて成立の余地はないと考えます。

 鳥語・ルー語を認めるなら、同じ結論になるとは思いませんか?

 

4.もうトリ頭とは言わせない

 『サイエンスZERO』2020年10月25日放送の「“羽毛のある類人猿” カラス 驚異の知力に迫る」では「カラス博士」杉田昭栄・宇都宮大学名誉教授により「道路にクルミをおいて車に割らせる」「滑り台やボール遊び」「人の顔を記憶できる」「数を理解する」「写真をモザイク状にバラバラにしても間違えずに選べる」「道具を使ってエサをとる」「20種類以上の鳴き声でコミュニティを維持している」などが明らかされていましたが、カラスがエサ確保の工夫や遊び、会話コミュニケーションで脳力を高めることが明らかにされていました。

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 なお『日経サイエンス』2020年8月号は.論文「もうトリ頭とは言わせない 解き明かされた鳥の脳の秘密」を掲載していましたがちゃんと読んでいませんでしたので、後ほど、調べて内容を追加します。

 私は犬の認識能力が人間の人間の6~12ヶ月齢の赤ちゃんと同程度とされ、あるいは2~3歳程度の知能とされていることや、100程の人間の言葉を覚えていることなどから、サルから人間への基本的な進化は1~3歳の間に形成されるという仮説を立てましたが、「メス同士と子の群れでの採集活動や食物分配、子ども同士遊びなどはコミュニケーションと言語能力を高め、糖質とDHA摂取により急速に頭脳の発達を促した」(縄文ノート85 「二足歩行」を始めたのはオスかメス・子ザルか)、「サルからヒトへの決定的に大きな進化は脳の発達であり、それを支えたのは糖質とDHAの糖質魚介食であり、乳幼児への様々な母サルと子育てを助けるメスザル、時々オスからの刺激と子ザル同士の遊びによって獲得された」(縄文ノート88 子ザルからのヒト進化説)ことを明らかにしてきましたが、カラスなど鳥の観察・分析によっても「エサ確保」と「遊び」の「会話」コミュニケーションこそが、鳥たちの知能を高めたことが明らかです。

 

5.鳥語・犬語・猿語・人語研究から「生類愛文明」へ

 「人間と動物」、「文明人と野蛮・未開人」、「唯一絶対神信仰者と異教徒・無神論者」を峻別し、支配・虐待・殺戮を正当化してきた「西欧中心文明史観」「白人優生思想」「ユダヤ・キリスト・イスラム軍国主義」に対し、生類全ての「霊(ひ)」の継承=命を大事にする文明・宗教こそがDNA科学によって今や裏付けられてきています。

 魚・蟹・海亀・鯨・牛・馬・鹿・猪・熊などの動物供養・慰霊の神社・寺院・塚・碑・火葬・墓・霊園などの伝統が各地に広くあり、死刑を廃止を行った52代嵯峨天皇や「生類憐みの令」を出した5代将軍徳川綱吉の歴史を持つわが国においては、DNA・動物語・人語の研究から「生類愛文明」への提案を行うべき時代と考えます。

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/