ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート148 「地・姓・委・奴・卑」字からの中国母系社会論

 古事記冒頭が「天地初めて発(はな)れる時」から始まっているように、「天と地」は中国人にとっても日本人にとっても世界の基本的な2つの構成要素でした。

現代人的合理性だと「宇宙と地球」となるのでしょうが、目に見える範囲で「天と地」と考えるのは古代人的合理的にかなっています。

 この「地」についていつものように漢字分解を行ってみると「地=土+也(女性器)」であり、中国人は「地」は「土+女性器」と考え、倭人は「土からなる」と解釈していたようです。

 人類の文明史の解明において、私は今や世界標準となった、縄文人から続く日本の「Emoji(絵文字)」と中国人の象形文字である漢字分解による分析は、世界の氏族・部族社会段階の宗教・社会の解明に大きな役割を果たすことができると考えます。

 今回、「地・姓・委・奴・卑」字の漢字分解と元字分析により、「蛇神信仰」「兄妹婚」「母系制社会」「女性による農耕起源」の解明が進みましたが、鉄の古形が「銕(てつ:金+夷(い))」であるいことから雲南の「イ(委、倭)族」と日本の「委奴国・倭国」の製鉄の関係など、さらにいろんなテーマで各分野の方に取り組んでいただきたいものです。

 

1 「地」字の意味

 ウィクショナリーの記載は混乱しており、「地」については「土+也。也は平らに伸びたサソリの象形文字、平らに伸びる様子を表す」とする一方で、「也」については説文解字後漢の部首別漢字字典)は「女陰の象形」、中国語学者藤堂明保氏は「蠍(さそり)の象形」としています。

 

 

 この「也」字にはこのように女陰説と蠍(さそり)説がありますが、図1のように古い象形文字の「地」字と「蠍=虫+歇(曷+欠)」字には類似点が全くありません。一方、「地」字の「也」字は漢代には「注1:」と書かれており、女性器から子どもが生まれる形を表しています。

 

 私は「北東北縄文遺跡群にみる地母神信仰と霊信仰」(『季刊 日本主義』31号20150925)とこれを修正した「縄文ノート10 大湯環状列石三内丸山遺跡が示す地母神信仰と霊(ひ)信仰」において、環状列石(ストーンサークル)太陽信仰説を批判し、次のように主張しました。

 

① 私は、石器人は人の生死を、植物が大地から生え、種子が落ち、枯れて大地に帰り、春に再生するのと同じように考えたという地母神信仰説を支持しています。

② 地面に掘る穴の円形の形状、昆虫があけた円形の穴、大地から生える木や植物の茎の円形の断面、子どもが生まれてくる女性の膣の形状、住居の円形平面などから、石器人たちは地中の死者の国は円形と考え、その範囲を円形に石で囲った可能性が高いと考えます。円形は天の太陽信仰ではなく、地母神信仰の入口を示しているのです。

③ 円形の石組の中心立てられた立棒は、東日本の各地の住居内の炉の近くや土坑の中央や縁に直立して発見されている男根型石棒と同じであり、円形石組は女性器を形象し、母なる大地の女性器に男根を立てて精液を注ぎ、黄泉の国の死者が再生することを願ったものと私は考えます。

 

       

 「地=土+也(女性器)」の漢字は、植物が生え、虫や蛇たちが湧いてくる大地を母と考え、その入り口の円形を女性器の象徴として崇拝した地母神信仰を示しています。

 また、「縄文69 丸と四角の文明論(竪穴式住居とストーンサークル))では、四角平面の箱型の骨組みに円形平面になるように屋根を設けていることから、縄文人は円形平面住宅にこだわっていることが明らかであり、そのルーツがアフリカから伝播した可能性を述べ、世界各地の集団墓地の環状列石(ストーンサークル)や円形石組、円墳に反映した可能性を次のように述べています。

 

 私は「縄文ノート32 縄文の『女神信仰』考」「縄文ノート34 霊(ひ)継ぎ宗教論(金精・山神・地母神・神使)」などにおいて、大湯環状列石において環状列石と石棒・円形石組がセットであることや、朱で満たした甕棺・石棺・石槨、現代に続く石棒―金精信仰などから、母系制社会の地神(地母神)信仰として「環状列石地母神性器説」を提案してきました。

 しかしながら、円形平面住居の歴史がアフリカに濃厚に残っており、日本では竪穴式住居として先行している以上、「環状列石死者の住居聖域説」もまた成立する可能性があります。死者の魂は神山(神名火山:神那霊山)から天神となって天に昇る一方、地中には死者の円形の住まいがあると考え、その範囲を環状の石列、あるいは土塁として、聖域化したのではないか、と考えるようになりました。

 竪穴式住居・ストーンサークルの「北方起源・南方起源」と合わせて、決着をつけるべき時でしょう。

 

 今回、「地」字が「土+也(女性器)」であることが明らかとなったことにより、アフリカから世界に広がった人類が母系制社会の地母神信仰であることが黄河文明からも裏付けられました。

 

2 蛇神信仰を示す戦国時代の「地」字

一方、戦国時代の「地」字には「土」字や「:以下注参照」=它(へび)字や「」=「阜(D」(フ:おか)字が見られることからみると、戦国時代には「地」字は「土の上に丘があり蛇がいる」という象形文字になります。

 

 図2に戦国時代と漢代の「地」字を比較しましたが、後者の「也」字は「女陰の象形」(〇から子どもが生まれる象形)とされる一方、「它(E)」(へび)字にも似ており、もともと両者は同じ字源であった可能性があります。

 

 さらに「縄文ノート90 エジプト・メソポタミア・インダス・中国文明の母系制」の「5 中国文明の母系制」で私は次のように書きました。

 

 中国神話では、人類創成の神は伏羲(ふぎ)と女媧(じょか)の兄妹とされ、姓は「風」で蛇身人首の姿で描かれることがあり、大洪水が起きたときに二人だけが生き延びて夫婦となり、それが人類の始祖となったとして中国大陸に広く残されているとされています。

 この伏羲・女媧神話は中国少数民族のミャオ(苗)族が信奉した神と推測されており、雷公が洪水を起こした時、兄妹は雷公を助けた時にもらった種を植え、そこから生えた巨大なヒョウタンの中に避難して助かり、結婚して人類を伝えたとされています。西アフリカのニジェール川原産のヒョウタンが登場し、メソポタミアの洪水伝説や蛇神神話、兄妹婚と同じであることが注目されます。

           

 戦国時代には人類のルーツを半蛇神とするミャオ(苗)族の蛇神信仰が行われており、「地」字も「(阜(おか)+它(へび))/土」で書かれていたものが、ミャオ(苗)族が漢族に敗れて揚子江中流域から山岳地帯に追われることにより、漢族の地母神信仰に変わり、「地」=「土+也(女性器)」に変わったと考えられます。

 わが国でも長野県富士見町の井戸尻考古館の「巳を戴く神子」土偶茅野市の「蛇体把手土器」や新潟・長野・福島等の「火焔型土器」のトカゲ龍の縁飾り、スサノオに殺されたヤマタノオロチ王は「八岐大蛇」とされ、スサノオと御子・大年(大歳)の大物主一族は美和(三輪)山に住む蛇神として大神(おおみわ)神社で祀られ、海人族の出雲大社では海蛇を龍蛇神として祀っており、4~6世紀の蛇行剣など、蛇神信仰は地母神信仰とともにわが国にも伝わっています。―縄文ノート「36 火焔型土器から『龍紋土器』へ」「39 『トカゲ蛇神楽』が示す龍蛇神信仰とヤマタノオロチ王の正体」「123 亀甲紋・龍鱗紋・トカゲ鱗紋とヤマタノオロチ王」「127 蛇行剣と阿曽地名からの鉄の伝播ルート考」参照

 その伝播時期は、縄文ノート「30 『ポンガ』からの『縄文土器縁飾り』再考」「36 火焔型土器から『龍紋土器』へ」で書いたように縄文時代に遡り、東南アジアのトカゲ龍信仰からの伝播と考えられます。

 さらに「縄文ノート90 エジプト・メソポタミア・インダス・中国文明の母系制蛇神信仰」において、「メソポタミア神話の最古のシュメール神話は、「海の女神」ナンム(Nammu)が天地を生み、全ての神々を生んだ母なる祖先と称され、蛇の頭を持つ蛇女神として表現され、天と地が結合している『天地の山』アン(アヌ)と『大地・死後の世界を司る女神』キを生んだとされます。・・・アンとキが兄妹神でありながら夫婦になる兄妹婚神話はギリシア神話のゼウスとヘーラーの兄妹婚にも見られ、私は母系神に妻問夫招婚した男神を血族として書き換えたことによるものと考えています」と書いたように、蛇神信仰は兄妹婚とともに海人族のメソポタミアが起源の可能性があります。

 また、エジプト神話においても、「創世神のヌン(Nun)は『原初の水』と呼ばれてあらゆる存在の起源とされ、その子の創造神アトゥム(Atum)の立つ大地『原初の丘』も指すとされています。アトゥムは原初の水『ヌン』より『蛇』の姿をして誕生し、独力で大気の神シューや湿気の女神テフヌトなどの神々を生み出した両性具有の神とされています」とされており、「原初の丘」と「蛇」、「両性具有の神」などは、前述のように中国の戦国時代の「地」字には「土」字や它(へび)字、阜(おか)字が見られることと符合しており、メソポタミア・エジプト神話がミャオ族に伝わった可能性を示しています。

 インダス文明では蛇神信仰は確認できていませんが、「八俣遠呂智(古事記)・八俣大蛇(日本書紀)の『八俣』は8つの頭を持っていた大蛇とされ、東南アジアに伝わる頭が7つあるインドの『ナーガ(蛇神)』や、仏法の守護神の八大竜王をイメージさせる偉大な王名としていることです(縄文ノート39 『トカゲ蛇神楽』が示す龍神信仰とヤマタノオロチ王の正体)と書いたように、インド神話にもは蛇神信仰が見られます。

 このようにメソポタミア・エジプト・中国の3大文明には確実に蛇神信仰が見られ、さらに日本の縄文文明にはもっとも古い蛇神・トカゲ蛇神信仰が見られることが縄文土器土偶から明らかです。4大文明以前にこの蛇神・トカゲ蛇神信仰は人類のアフリカからの拡散とともに、地母神信仰や水神信仰、神山天神信仰とともに各地に広がった可能性が高いことを伺わせます。

 

3 「姓」字など家族関係語が示す母系制社会

「姓」字が「女+生」であることは、中国においては5000年前頃の甲骨文字から3000年前頃の姫氏の周王朝の頃は母系制社会であったことを、私は次のように書いてきました。

① 「縄文ノート48 縄文からの『日本列島文明論』」

中国もまた、彼らが大事にする「姓」字が「女+生」であることなどから、孔子が理想とした姫氏の周王朝までは母系制であり、春秋・戦国の時代から父系制にかわったのではないか、と私は考えています。

② 「縄文ノート75 世界のビーナス像と女神像」

 「姓」字が「女+生」であるように古代中国もまた母系制社会であり、「姫氏」の周王朝の諸侯であった「魏」(禾+女+鬼)は「禾(稲)を女が鬼(祖先霊)に捧げる」国であり、周王朝を理想とした曹操卑弥呼の「鬼道」(孔子は「道」の国とみていた)の国を特に厚遇したのです。

 

 「女」偏の漢字が、家族語の「娘、媛、姫、姉、妹、姪、妻、婦、嫁、婿、婚、妊、娠、姻、姑、婆」などに多く見られることをみても、中国は元々が母系制社会であったことを示しています。 特に注目したいのは「婿(むこ)=女+疋(足)/月」で、中国では男が女の家に「足入れ婚」(正式の婚姻前に家族に入る婚姻居住形態)を行われていたことを示しています。

 さらに、「威(女+戈:おどす)」「媚(女+眉:こび、うつく-しい)」「姜(羊/女:美女)」「妙(女+少:若い)」「姿(次/女)」「嬰(貝貝/女:あかご)」「娯(女+呉)」などをみても、女性文化の国であったことを示してます。

 これに対して、「男=田/力」であり、田を耕す働き手であることを期待されているだけであり、「男」偏はなく、「男」字を含むよく知られている漢字は「甥(おい:生+男)」、「舅(しゅうと:臼/男)」、「虜(とりこ:虍(とらかんむり)+男)」らいしかありません。

 

4 「委」「倭」「魏」「始」「嫌」字が示す稲作の女性起源

 これまで「委(禾/女)」「倭(人+禾/女)」「魏(委+鬼)」字について、私は次のように書いてきました。「委」字について、ウィクショナリーは「禾と女ともに柔らかいので、任せて従うことを示す」と解釈していますが、これは母系制社会から父系制社会に変わった後の儒家の解釈であり、そのまま読めば「禾/女」字は「禾(のぎ:稲や穀物)を女が掲げる」という字です。

     

① 縄文ノート6 古代国家形成からみた縄文時代―船・武器・稲作・宗教論

 「魏」は「委+鬼」であり、「鬼」は頭蓋骨や仮面をかぶった人とされている。「委」は「禾(のぎ:稲)+女」で女性が頭を下げた様子を表しており、「魏」は女性が祖先霊を敬うことを表す漢字である。

② 縄文ノート21 2019八ヶ岳縄文遺跡見学メモ

 石包丁や石鍬、磨り臼・磨り石を合わせて考えると、この地では4~5000年前頃に「粟(西+米)」「稗(禾(ワ:稲)+甶(頭蓋骨)+寸(手))」「黍(禾:稲)+人+水)」「麦(麥=來(来)+夂(足))」などのイネ科穀物やソバ(タデ科)の栽培が行われており、縄文農耕が確立していた可能性が高いと考えます。

③ 縄文ノート26 縄文農耕についての補足

 「委奴」国名は漢字分解すると「禾(稲)+女+女+又」になり、「縄文絵文字」の伝統を受け継いだ倭流漢字用法で「禾(稲)を女が、子を宿す女の又(子宮)に捧げる母系制の国」であることを表したものであり、委奴国王・スサノオ後漢への使者に持たせた国書に倭人側が書いた国名であると私は考えます。「いな=いね」の国を倭人が「委奴(いな)」と国書に表記したのであり、後漢側が「卑字」として使ったものではないのです。―詳しくは『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)参照

④ 縄文ノート32 縄文の「女神信仰」考

 周(姫氏)の諸侯であった「魏(禾(稲)+女+鬼)」は鬼(祖先霊)に女性が禾(稲)を捧げる漢字であり、魏の曹操は「われは文王、姫昌(きしょう)たらん」と述べ、孔子が理想とした周王朝を再建したい、という「志」を持っていました。

 

 さらに注目したいのは、「始」字が「女+ム(耜(すき)の象形で原字)/口)であることです。なお「ム=耜(すき)」字は「耒(すき)+𠂤(「堆」の異体字)」と考えられ、鍬で土を盛り上げて畝をつくることを象形した字であり、「女+ム+口」は「女が鍬で穴を掘る」という象形文字と考えられます。ウィクショナリーは「『厶』は耜(すき)を意味、台は耜を持ち耕し始めるの意。女としてはじめて子を孕むことであり、胎と近縁」として女性の出産と解釈していますが、厶(耜(すき))字が含まれる以上、「始まり」は「女による農耕の開始」という意味と私は考えます。

 なお、「鬼」字について、前掲のように「『鬼』は頭蓋骨や仮面をかぶった人とされている」としましたが、漢の時代になると「ム」が加わっており、「甶(頭蓋骨)/(人+ム(耜(すき))」であることからみると、「鋤を使った農業で支えられた祖先の甶(頭蓋骨)」という字になり、農耕文明段階の祖先霊信仰を示しています。私はこの「甶(頭蓋骨)」は女性のものであると考えています。

        

 さらに「嫌(女+兼:きらう)」字も気になります。「兼(かね-る)」字は「禾+禾+又(手)」の象形文字で、「『秝(『禾』が並ぶ様)』を、『又(手)』で持つ様で、あることが続くの意」とウィクショナリーは解釈していますが、「嫌」は女性が稲運びの力仕事を嫌い、男(田/力)に任せたという母系制社会を示す漢字と考えます。

        

 「鎌」(藁などを手でまとめ刈り取る刃物)字をみても、「兼」は農耕から派生した象形漢字であることが明らかであり、しかも女性中心の漢字なのです。

 私はサルから人類への進化は、熱帯雨林の沼地・小川・海岸での母・子たちの採集・漁撈による糖質・DHA食とおしゃべりによる頭脳の発達と下半身を水につけての二足歩行と棒を使う手の発達によるものであり、家族の形成はそこにオスが用心棒・力仕事で加わったと考えてきましたが、漢字の「禾」「始」「嫌」「男」字はそのような人類進化を見事に示しています。―縄文ノート「81 おっぱいからの森林農耕論」「85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか」「88 子ザルからのヒト進化説」「89 1段階進化説から3段階進化説へ」「107 ドーパミンからの人類進化論―窮乏化進化か快適志向進化か」「111 9万年前の骨製銛からの魚介食文明論」「126 『レディ・サピエンス』と『女・子ども進化論』」「140 イモ食進化説―ヤムイモ・タロイモからの人類誕生」「141 魚介食進化説:『イモ・魚介、ときどき肉食』その2」「142 もち食のルーツは西アフリカ」参照

 

5 「奴」「卑」は女性差別の悪字か?

 「縄文ノート21 2019八ヶ岳縄文遺跡見学メモ」において、私は「孔子が述べた『男尊女卑』の、『尊』字は『酋(酒樽)+寸(手)』、『卑』字は『甶(頭蓋骨・仮面)+寸(手)』で、女は祖先霊が宿る頭蓋骨を手で支え、男はそれに酒を捧げるという意味であり、『男は尊い、女は卑しい』というのは後世の儒家の歪曲です」と書きましたが、始祖の言葉とそれ伝えた弟子たちの記録や後世の学者たちの解釈には歪曲がある可能性を考えておく必要があると考えます。キリスト教などもその典型です。

 「匈奴」や「委奴国」の「奴」についても同じで、「奴」は「女+又(右手)」でウィクショナリーは「女を手でとらえ奴隷としたものとも、手作業をする奴隷とも」と解釈する一方で、「又」については「『右』の原字。かばう・たすける(佑)の意があり、『友』『有』の原字でもある」としています。

      

 この「又」字の解釈なら、奴(女+又)は「右手で女をかばう、助ける」の意味となり、漢委奴国王の金印に刻まれた「委奴」=「禾/女+女+又」は「稲を掲げる女を手で助ける」の意味となり、「匈奴」や「奴隷」などに使われた女性を蔑んだ悪字にはなりません。ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑さんの「佑=人+右」字を「たすく」と読むことから見ても、「奴=女+又(右手、友、有)」字は本来は良字であったとみて間違いありません。

 「卑」字について、前掲のように私は「孔子が述べた『男尊女卑』の、『尊』字は『酋(酒樽)+寸(手)』、『卑』字は『甶(頭蓋骨・仮面)+寸(手)』で、女は祖先霊が宿る頭蓋骨を手で支え、男はそれに酒を捧げるという意味」と書きましたが、当時はウィクショナリーの字源を知らず、今回、「甶(頭蓋骨・仮面)」字の下に棒が伸びていることに気付いたので訂正したいと考えます。

 ウィクショナリーは「柄杓又は柄杓状の酒器を手で持つ様で、『椑』の原字。柄杓や酒器で雑事を処理することから、身分が『ひくい』『いやしい』事と概念された」としていますが、もともと酒は女性が造り、祖先霊に捧げ、皆で共飲するものであったことからみて、孔子の「男尊女卑」は「男が尊(酋:酒樽)を寸(手)で運び、女は柄杓を持って祖先霊に捧げるという役割分担を示した言葉」に修正したいと考えます。

 「縄文ノート73 烏帽子(えぼし)と雛尖(ひなさき)」で書きましたが、中国唐代の「烏沙 (うしゃ) 帽」やわが国の「烏帽子(えぼし)」、「八咫烏」伝承、青森・秋田・茨城・新潟・長野に小正月(1月15日)にカラスに餅や米、大豆の皮や蕎麦の殻、酒かすなどを与える「ホンガ」のカラス神事に伝わり、そのルーツは南インドのドラヴィダ族の「ポンガ」の祭りから雲南などのイ(委・倭)族(烏蛮)をへて揚子江流域に広がったと私は考えています。

      

 「奴」や「卑」字は、姫氏の周代の母系制の氏族社会では良字=貴字であったものが、春秋戦国時代の領地争いの争乱により男は殺し、女・子どもは奴隷とするようになり、「奴」や「卑」字は女性差別・軽蔑の悪字にされたと私は考えています。

漢王朝を支えた儒家たちは、母系制社会から戦争による父系制社会への移行に合わせ、孔子の「男尊女卑」の解釈を変えるとともに、「奴」「卑」字などを女性差別・軽蔑の悪字に貶めたのです。

 「妖(女+夭(走る):なまめかしい、あやしい)」「嫉(女+疾(病気):ねたむ)」「妾(辛(針状のとがった刃物)/女:女奴隷)」「姦(女+女+女:かん-する、かしま-しい)」「娼(女+昌(日+日:さかん))」なども良字から悪字にされたと考えます。

 なお、「委奴国」「倭国」を誰が書き、どうよみ、どう解釈するかについては、別稿で整理したいと思います。

 

6 まとめ

 人類の文明史の解明において、「縄文ノート52 縄文芸術・模様・シンボル・絵文字について」においても少し触れましたが、縄文人の「縄文Emoji」と、中国人の象形文字である漢字は、世界の氏族・部族社会段階の宗教・社会の解明に大きな役割を果たすと考えます。―縄文ノート「22 縄文社会研究会八ヶ岳合宿報告」「36  火焔型土器から『龍紋土器』 へ」「39 『トカゲ蛇神楽』が示す龍蛇神信仰とヤマタノオロチ王の正体」参照

 「蛇神信仰論」「兄妹婚論」「母系制社会論」「女性による農耕起源論」をテーマとして、門外漢なりの検討を進めてきましたが、さらにいろんな切り口で検討を進めていただきたいものです。―「縄文ノート136 『銕(てつ)』字からみた『夷=倭』の製鉄起源」参照

 特に、言語学や漢語学、絵文字アートなどの関係者の皆さんに取り組んでいただくことを期待したいと思います。また文化人類学の皆さんには、世界の絵文字伝播の可能性について検討し、人類拡散ルートの解明に役立てていただければ幸いです。

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなのくに)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2012夏「古事記」が指し示すスサノオ大国主建国王朝(『季刊 日本主義』18号)

 2014夏「古事記播磨国風土記が明かす『弥生史観』の虚構」(前同26号)

 2015秋「北東北縄文遺跡群にみる地母神信仰と霊信仰」(前同31号)

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(前同40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(前同42号)

 2018秋「『龍宮』神話が示す大和政権のルーツ」(前同43号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(前同44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(前同45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団              http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/