ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート130 『サピエンス全史』批判1

 ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』をざっと読みました。

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 伝説やユダヤ教キリスト教イスラム教、イデオロギー社会主義、人間至上主義)、貨幣信用などを「嘘話(虚構)」と批判し、「嘘話」で形成された集団によって人類が進歩したと勇気ある分析を行い、嘘話を信じる人たちに大きな影響を与えた点は高く評価したいと思います。

 しかし、その「嘘話」論は吉本隆明氏の「共同幻想論」(たんに言葉でしか知りませんが)として1970年頃にはそれなりに知られており、とりわけ目新しいものではありませんでした。本来なら吉本氏の影響を受けた人たちが深め、世界最高水準の縄文社会・文化研究や文化人類学などをもとにハラリ氏に先行して世界史的な視点からまとめるべきであったのではないか、と感じました。

 しかし、ハラリ氏は「唯一絶対神」を発明し、カナン(現在のイスラエル)を神が与えた「約束の地」として侵略・殺戮・征服・支配を行い、金融資本主義を先導したユダヤ人の「原罪」を隠した「嘘話ユダヤ教・金融資本主義」から説明すべきであったにも関わらず、それを避けています。ユダヤ人差別の中にあるハラリ氏には思想家としての限界を感じました。

 「唯一絶対思想」を考えたマルクスもこの「唯一絶対神」思想の延長にあり、どちらも同じように「宗教と思想の嘘話の統一による人類の統一」(グローバリズム)を目指しており、その延長上にハラリ氏もまたいるのではないか、という印象を受けました。

 また、彼の人類起源論・人類拡散論のまとめは、古くさい白人中心史観の男性中心史観、肉食・狩猟・戦争進化史観の定説の要約にすぎず、最近の研究成果を踏まえておらず、期待を裏切られてがっかりでした。カナン(フェニキア)人やシュメール人ストーンヘンジなどをつくったブリトン人、4大文明のエジプト・インダス・中国文明、土器鍋を囲んだ1万数千年の縄文人の歴史など、ユダヤ人・ローマ人の歴史以前の世界史を無視した西洋中心史観であることはマルクスと同じです。

 その結果、現在の課題である「戦争・侵略なき世界」「グローバリズムの格差なき文明社会」「地球環境問題」「貨幣嘘話=拝金主義なき世界」への展望を示すことはできず、「幸福度」「人生の意義」などというボンヤリとした「超ホモ・サピエンス」時代を提案しているのは「竜頭蛇尾」もいいところと思います。

 この本は宗教・貨幣・思想の「嘘話」から覚めるために多くの人に読んで欲しいと思いますが、そこから肉食・狩猟・戦争進化論の西欧中心史観やユダヤ・キリスト・イスラム一神教奴隷制ローマ帝国近代科学社会後の奴隷制アメリカ帝国などを冷徹に批判し、縄文文明などアフリカ・アジア・南北アメリカを中心に置いた世界史の解明に進み、未来社会を展望する若い人たちが出てきて欲しいものです。

 『サピエンス全史』を読んで思い出されるは、古くさい話で恐縮ですが1960・70年代の「主意主義(われ思うわれあり)対唯物史観(存在が意識を規定する)」、「実存主義(実存は本質に先立つ)」「主体性論(自らの意志による行動)」「武谷弁証法(客観的法則の意識的適応)」などの議論です。

 青くさいと思われるかも知れませんがその議論を思い出していただくと、「吉本共同幻想論」や「ハラリ嘘話論」は「人間の存在・実存・主体性・意識性を欠いた受動性(嘘話付和雷同性)批判」にしかすぎず、1970年代からの運動の中で作り上げてきた新しい「共同性・協働性・公正性」や「多様性」「平等性」「生類愛」などの豊かな思想と実践の反映は見られません。帝国主義イスラエルに暮らしてきておりやむをえないと思いますが、1970年以前の古くさい思想のままです。この間のウクライナ戦争に対するロシア支持の「化石左翼」メンバーの化石度と同じように感じずにはおれません。

 なお、私はグロ-バリズムの「世界単一市場化の世界支配と不均等発展」には組せず、全ての民族・地域の自立・経済的発展と尊厳を願う汎民族・汎地域主義者であり、西欧キリスト教社会のユダヤ人差別・迫害・大量殺戮を強く憎むものであり、私の批判は唯一絶対思想のユダヤ教マルクス主義亜流、イスラエルパレスチナ支配・迫害に限って向けられているものであり、反ユダヤ主義者ではないことを改めて強調しておきたいと考えます。

 

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/