ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート118 「白山・白神・天白・おしら様」信仰考

 会社を移転・縮小した時と自宅1階事務所を閉鎖した時の2段階で集めた各分野の本を泣く泣く大幅に処分し、まだレンタル倉庫に段ボールに入ったまま残っている反省から、本の購入は絞り、図書館で借りることができない本だけ買うようにしています。

 借りていた古部族研究会(野本三吉・北村皆雄・田中基)編の『諏訪の祭祀と氏族』が返却期限となったので、「白山・白神・天白・おしらさま」信仰について考察しておきたいと考えます。

 

1 天神信仰

 私のそもそもの関心は、スサノオ大国主一族の死者の霊(ひ)が「神名火山(神那霊山)」から天に昇り、降りてくるという「八百万神信仰」のルーツが縄文時代に遡るのではないか、という仮説でした。

 

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 蓼科山に向かう阿久遺跡の石列や中ツ原・阿久尻・三内丸山遺跡の巨木高層拝殿、女神(めのかみ)山伝承などからその証明はできたと考えています。―縄文ノート「縄文ノート23 縄文社会研究会 八ヶ岳合宿報告」「34 霊(ひ)継ぎ宗教(金精・山神・地母神・神使文化)について」「35 蓼科山を神名火山(神那霊山)とする天神信仰」「40 信州の神那霊山(神名火山)と霊(ひ)信仰」「99 女神調査報告3 女神山(蓼科山)と池ノ平御座岩遺跡」参照

 さらにDNA分析とヒョウタンやイネの伝播から縄文人のルーツが東インド・東南アジアの照葉樹林帯であり、さらに南インド、アフリカ高地湖水地方ニジェールコンゴ川流域の熱帯雨林での人類誕生に遡り、「神山天神信仰のルーツはアフリカ高地湖水地方の白い万年雪を抱くルウェンゾリ山・ケニア山・キリマンジャロ」であり、そこからエジプト文明の上が白く下が赤いピラミッドや、メソポタミア文明アララト山信仰や聖塔ジッグラト、インダス文明カイラス山(仏教の須弥山)信仰、日本の蓼科山などの神名火山(神那霊山)信仰が生まれた、という結論に至りました。―縄文ノート「57 4大文明と神山信仰」「61 世界の神山信仰」参照

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 そして、鬼怒川温泉に行った際にその上流の奥の高原山の1440mの高地に日本最古の後期旧石器時代初頭(19000~18000年前頃)の黒曜石の露頭と採掘・加工跡(高原山黒曜石原産地遺跡群)があることを知り、黒曜石文化もまたアフリカをルーツとし、メソポタミアや縄文の黒曜石文明が生まれた、と考えました。―縄文ノート「27 縄文農耕からの『塩の道』『黒曜石産業』考」「44 神名火山(神那霊山)信仰と黒曜石」参照

 

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 以上の神名火山(神那霊山)信仰論を前提にして、『古諏訪の祭祀と氏族』の中の今井野菊氏の「諏訪の大天白神」、野本三吉氏の「天白論ノート」に触発されて考察を進めたいと思います。

 

2 天白信仰について

 ウィキペディアは、「天白信仰(てんぱくしんこう)は、本州のほぼ東半分にみられる民間信仰である。その分布は長野県・静岡県を中心とし、三重県の南勢・志摩地方を南限、岩手県を北限として広がっている」「信仰の対象・内容が星神・水神・安産祈願など多岐にわたることから様々な研究・解釈が行なわれたが、1980年ころから伊勢土着の麻積氏の祖神天白羽神(あめのしらはのかみ、長白羽神の別名)に起源を求める説が紹介されることが多くなった」と要約し、「柳田國男・・・『風の神』である可能性を指摘」「堀田吉雄は・・・中国由来の天一太白の合成と考えるのが自然とした」「今井野菊は・・・天白信仰は水稲農耕以前、縄文時代まで遡るとした」「茂木六郎はラマ教性神としての「大天白」の信仰」「田中静夫は『天白波神天白羽神)を祀った』とした」「山田宗睦は・・・『天白の起原を天ノ白羽に求める』」と各説を紹介しています。

 最有力説は天白羽神起源であり、今井氏の「縄文起源説」は異端説となっています。

 これに対して、今井野菊氏は諏訪の天白神と御左口神分布や伝承をもとに、「天白神信仰民は原始農耕・原始漁撈の人たちで、遺跡は原始狩猟民よりも山岳を下った海辺や河川に住み、沼地などで水稲文化の御左口神を受け入れて共存共営した」というものであり、それらの祭祀集落の焼畑農耕と水稲栽培の立地条件から前者を焼畑農耕神、後者を水稲栽培神と分析しています。

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 大天白神と御左口神の信仰の内容を具体的に対比した貴重な分類はここではその全体を引用しませんが、注目すべきは、前者・後者とも石棒と石皿(私説:石臼・石すり鉢)を祀り、縄文時代との連続性を示しているのです。ただ、どちらの信仰も由緒不明として縄文時代からの起源として追究していないの残念ですが、今井説は、他の文献・伝承だけに頼った分析より即地的であり、はるかに質の高い科学的なものと私は評価します。

 また「天白神の志摩・伊勢以東の呼び名と宛字は、シラ神、シラ、オシラサマ、大天白神、天白神、天馬駒太白神、天狛神、大手白神等であります」という指摘も重要で、「シラ神」信仰がもともとのルーツであったと私は考えます。

 そして、それは上が白くて下が赤いピラミッドと同じく、赤道直下のアフリカで白い万年雪を抱くルウェンゾリ山・ケニア山・キリマンジャロ信仰などをルーツとし、ヒマラヤ山脈を望む南・東南アジア高地を経た日本列島に伝わった神山天神信仰=白神であり、倭音倭語の「天白神(あまのしらかみ)」が仏教伝来とともに漢音漢語が普及した時期から「天白神(てんぱくしん)」と呼ばれるようになったと考えます。

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  この天白神=白神信仰は、白い雪を頂く活火山のある縄文社会の各地に存在し、大国主一族の神名火山(神那霊山)信仰に繋がったと考えます。

 なお、呉音漢語・漢音漢語使用以前の歴史分析においては、「一大国」を「いちだいこく」、「邪馬壹国」を「やまいこく」などと読むのではなく、「いのおおくに」「山のいのくに」と読むべきであり、全て倭音倭語で分析する必要があると考えており、「天白神」も「あまのしらかみ」と読むところからスタートすべきなのです。

 また、琉球で「あいういう」5母音であったことから、古くは「あいう・いぇ・うぉ」5母音で、琉球などでは「あいういう」、本土では「あいうえお」の5母音に変化したのであり、白=「しら・しろ」であり、「しら」がより古い音と考えます。―「縄文ノート97 『3母音』か『5母音』か?―古日本語考」参照

 

3 白山・白神・おしらさま信仰について

⑴ 白山信仰

 白山は富士山・立山とともに日本三霊山の1つであり、古くは倭音倭語で「越白嶺(こしのしらね)」(奥の細道では「白根が岳」)、次に「白山(しらやま)」と呼ばれ、現在は漢音で「はくさん」と呼ばれています。

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 ウィキペディアによれば「古代より白山は『命をつなぐ親神様』として、水神や農業神として、山そのものを神体とする原始的な山岳信仰の対象となり、白山を水源とする九頭竜川手取川長良川流域を中心に崇められていた」とされています。

 私は現役時代、合併して今は白山市となった鶴来町(金釼宮から劔=剣=鶴来名に)へ仕事で行きましたが、白山比咩(しらやまひめ)神社とともに菊姫の銘酒、小型幅広の使い勝手のいい「かわとり包丁」などが有名で、全国各地の約2700社の白山神社の総本社が加賀国一宮の白山比咩神社です。そして、白山市全域は「白山手取川ジオパーク」として2020年にユネスコ世界ジオパーク認定へ向けて推薦することが決定しています。

 この白山信仰で重要なのは、浅間(あさま)大神=木花之佐久夜毘売(このはなのさくやひめ)を祀る富士山と同じく、白山比咩(しらやまひめ)大神=菊理媛(くくりひめ)を祀っていることで、私は縄文時代から続く女神(めのかみ)の山神(やまのかみ)信仰が、1~3世紀のスサノオ大国主建国とともに御子(巫女)神の女神信仰が加わったと考えます。

 

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⑵ 白神山

 白神山はNPO白神自然学校一ツ森校の代表理事の永井雄人氏のホームページによれば、1753年に作成された『津軽領内山沢図』には「白神嵩」「白神沢」と記載され、津軽藩博物学者・菅江真澄の日記『菅江真澄遊覧記』(1783~1829年)には「白上」「白髪が岳」と記されています。

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 今に続く山神信仰の痕跡はみられませんが、その名称からみて古くは「白神」信仰の聖山であった可能性が高いと考えます。

 縄文人琉球から九州西海岸→出雲→若狭→能登→ヒスイ海岸・糸魚川津軽へとオオツタノハなどの貝輪を運び、ヒスイを持ち帰った時、

 1993年に「白神山地」は「屋久島」とともに、原生的な状態で残存するブナ林で、動植物相の多様性で世界的にも特異な森林として世界遺産登録されています。

⑶ おしら様

 ウィキペディアは「おしら様(おしらさま、お白様、オシラ様、オシラサマとも)は、日本の東北地方で信仰されている家の神であり、一般には蚕の神、農業の神、馬の神とされる。茨城県などでも伝承されるが、特に青森県岩手県で濃厚にのこり、宮城県北部にも密に分布する。『オシンメ様』『オシンメイ様』(福島県)、『オコナイ様』(山形県)などの異称があり、他にオシラガミ、オシラホトケ、カノキジンジョウ(桑の木人形)とも称される」「女の病の治癒を祈る神、目の神、子の神としてのほか、農耕神として田植え、草取り、穀物の刈り入れなどに助力するともいう」「神体は、多くは桑の木で作った1尺(30センチメートル)程度の棒の先に男女の顔や馬の顔を書いたり彫ったりしたものに、布きれで作った衣を多数重ねて着せたものである」「おしら様の『命日(めいにち)』におしら様に新しい衣を重ね着させ、本家の老婆が養蚕の由来を伝えるおしら祭文を唱えたり、少女がおしら様の神体を背負って遊ばせたりするので、かつては同族的な系譜を背景とする女性集団によって祀られていたとも考えられる」「盲目の巫女であるイタコが参加することも多い」「切られた馬の首に娘が飛び乗り空へ昇り、おしら様となった」などとしています。

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 これらの伝承には白山信仰をうかがわせるものは見られませんが、天白神に「シラ神、シラ、オシラサマ」の呼び名があること、おしら様に「オシラガミ」の呼び名があること、死んで天に昇り神となるという伝承があること、女性が祀りを担ったこと、天白神信仰の北限が岩手県で「おしら様」信仰が特に青森県岩手県で濃厚であることなどからみて、白山=天白神信仰信仰が東北に伝わって「おしら様」信仰に変容した可能性があると考えます。東北の「お山=山神(やまのかみ)信仰」と「おしら様」信仰との関係がどうなのか、今後の調査課題としたいと思います。

 なお古事記で大氣都比売(おおげつひめ:イヤナミが産んだ阿波国の別名としていますが、イヤナミが産んだ大氣都比売の国が阿波国ということでしょう)の死体から五穀と蚕が生まれたという地母神神話が見られることや、卑弥呼が千人の女性を集めて絹織物を生産して魏に献上していること、天照(あまてる)大御神が神御衣(絹織物であろう)を織らせていたという記載からみても、おしら様=蚕の神を祀るのは女性たちであったことが明らかであり、白山信仰=山神(やまのかみ)=お山信仰が女神(めのかみ)信仰であったことと符合しています。

 

4 「白山・白神・おしらさま信仰」は命の宗教

 古代から人々は死後にも記憶にいつまでも残る死者の思い出から、死者の霊(ひ)が残り、神山(神名火山=神那霊山)や神木(神籬=霊洩木)から天に昇り、また降りてくると信じ、親と子が似るDNAの働きを「霊(ひ)」の継承=霊継(ひつぎ、棺・柩)として考えていたようです。

 死者が全て神となるという八百万神信仰、霊(ひ)・霊継(ひつぎ)信仰は、「霊(ひ)の継承」=「命のバトン」を何よりも大事にする宗教であり、霊(ひ=DNA)が宿る人間を「霊人(ひと)・霊子(ひこ=彦)・霊女(ひめ=比売=姫)」と命名し、妊娠を「霊(ひ)が止まらしゃった」(出雲)とし、子どもが生まれる女性器を「ぴー・ひー」(宮古)、「ひな」(天草・大和・群馬・茨城)と呼んだのです。

 「白山・白神・天白・おしら様」信仰や「お山」信仰は単なる自然信仰ではなく、蓼科山のように「女神(めのかみ)」・「ヒジン(霊神)」信仰であり、霊(ひ:祖先霊)信仰の1つの形態であると考えます。そして、烏帽子(えぼし=からすぼうし)の前に「吉舌(ひなさき=クリトリス)」を付けるのは、死者の霊(ひ)を運ぶカラスを神使とし、女性器を崇める霊(ひ)信仰の別形態であり、女神に捧げ、神代(依り代)とする石棒祭祀もまた同様と考えます。

 次回は「縄文ノート53 赤目砂鉄と高師小僧とスサ」の続きとして、富士見町の金屋製鉄遺跡の「赤目砂鉄製鉄」のルーツが大国主一族の伊勢津彦の可能性について少し深掘りしたと思います。

 

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/