ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート116 独仏語女性語からの母系制社会説

 縄文ノート95~102で「女神」論を書いていて、「女神」を英語でどう表現するか気になって調べると「goddess」で、「女神像」を調べると「goddess statue」でした。ついでに「自由の女神像」を調べると「statue of liberty」(自由の像)で、「女神」にはなっていません。

 こういう細部が気になってすぐに横道に逸れてしまうのは幼児の頃からの私のクセで、母からは「昌弘は気が散る」と言われ続け、街に出ると迷子になってよく困らせていましたが、またまた迷子になりそうですが、ちょっと横道に逸れてみたいと思います。

 ネットがありがたいのは、同じようなクセの人が必ずいるもので、「アメリカのニューヨークには、「自由の女神像」があります。でも英語では “the statue of the liberty” で「自由の像」としか言いません。ではどうして「女」神なのでしょうか。これは、liberty のもとのラテン語 libertas と、像を贈った国フランスの言葉 liberté がともに女性名詞だからなのです」などの解説がありました。

 大学ではドイツ語をやったはずですが女性名詞・男性名詞などすっかり忘れてしまっていましたが、どちらが先に生まれたのか、どのような社会的な性的役割分担や位置づけで決まったのか気になります。

 「アフリカ熱帯雨林での母子・女性・子ども同士のコミュニケーションが言語能力を発達させた」「氏族・部族共同社会は地母神(女神)信仰であった」という私の説は、ヨーロッパ・アジア・日本の女性像・女神像の分析に加えて、ドイツ語・フランス語の女性名詞と男性名詞の分析からも裏付けられました。

 

1.独語・仏語の女性名詞と男性名詞

 ドイツ語・フランス語の女性名詞・男性名詞について、ネットでざっと調べることができたのは、次のとおりです。私の独語・仏語の辞書はレンタル倉庫に入っており調べるのは手間で、後回しにするか他の人に任せたいのですが、仮説として問題提起しておきたいと考えます。独語・仏語の元となったとされるラテン語などは調べられませんでした。

 

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2.メソポタミア神話の女神・男神と独語・仏語の女性名詞・男性名詞の対応

 表1はまだ未完成の穴だらけですが、古代からの名詞では女性名詞が多いことが自然・仕事・食物・住居・生活・感情・文化・都市・施設・政治の各分野において一目瞭然です。食物の穀類・豆類魚肉類、文化の冠婚葬祭、宗教などの名詞が落ちており、さらに調査が必要ですが大勢は変わらないと予想します。

 西欧文明の元となった氏族・部族社会のメソポタミア文明は母系制社会であり、母系制社会こそが女性語のルーツであり、その影響が強く反映して自然・農業・生活・文化・都市などの多くの基本語は女性名詞であったと考えます。

 男性名詞は①狩猟・牧畜・放牧などの名詞の追加(山・森・罠・チーズなど)、②軍国・帝国主義ギリシア・ローマの支配・交易による追加(金属・オレンジ・レモン・ワイン・広場・暦・方位など)、③男性中心の政治・行政・交易・生産・都市形成による追加(市場・資本主義・共産主義など)により、後世になって追加されたと考えます。男性名詞が先に生まれ、女性名詞が後世に加わったのではないのです。

 古代メソポタミアの世界最古のシュメール神話では、表2のように、「海の女神」ナンム(Nammu)が天地を生み、全ての神々を生んだ母なる祖先で、蛇の頭を持つ蛇女神とされています。そして「天空の神」の男神アン(アヌ)と「大地・死後の世界を司る女神」のを生み、さらにアン(もしくは月神シン)と「ヨシの女神」ニンガルの娘のイシュタルは「金星・豊穣・愛欲・戦争」の女神とされ、双子の兄に「太陽神」ウトゥ(シャマシュ)、姉に冥界を支配する「死の女神」エレシュキガルがいたとされます。―「縄文ノート90 エジプト・メソポタミア・インダス・中国文明の母系制」参照

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 このようにシュメール神話では、女神が重要な位置を占めており、その男女の役割にそってラテン語やその影響を受けた独語・仏語に女性名詞・男性名詞が割り振られた、と考えます。

 メソポタミア神話の女神・男神と独語・仏語の女性名詞・男性名詞の対応は、次のとおりです。空蘭は今後、補充したいと考えます。

 

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3.ナチスの「アーリア民族説=インドヨーロッパ祖語説」をいつまで信奉し続けるのか?

 イギリスのインド植民地化やナチス・ドイツの「アーリア民族説」による東欧・アジア征服のための「インドヨーロッパ祖語説」という空想説から離れてみると、残るのは母系制社会のメソポタミア神話の神々に見られるように母系制社会の信仰・文化から女性名詞が先に生まれたのです。

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 ウクライナ・ロシアの草原地帯で牧畜・農業を営んでいた「アーリア語族」がその男性・女性名詞を西欧、西・中央アジア、さらには南アジアのイラン・インドまで伝えたという主張は、アフリカ・アジアの4大文明やギリシア・ローマ文明などを無視し、遅れた辺境であった西欧や東欧があたかも言語文化の中心地であったかのように演出したイギリスとナチス・ドイツの空想・空論なのです。ところが「日独伊3国同盟」の名残りなのか、日本でも「アーリア民族説=インドヨーロッパ語族説」の信奉者が未だに多いのにはあきれます。

 前回の「縄文ノート115 鳥語からの倭語論」において、私は「日本語が『倭音倭語・呉音漢語・漢音漢語』の3層構造(現在は英語が加わわった4層構造)でありながら、インドシナ語や中国語のように『主語―動詞-目的語』構造でないことは重要で、言語コミュニケーションにおいては、語順が重要であったことを示しています」と述べましたが、日本語を基礎語の倭音倭語ではなく借用語の「呉音漢語・漢音漢語」で分析すれば、日本語は漢語圏になり、さらには弥生人(長江流域漢民族)征服説になってしまいます。

 その程度の幼稚な語学分析のレベルが「インドヨーロッパ祖語説=アーリア民族説」なのですが、「和魂漢才・和魂洋才」と言いながら「倭音倭語」を忘れてしまった拝外主義者たちには見えないようです。DNA分析についても同じで、日本人の中の14%(東京)~26%(九州)のY染色体O3型を中国華北60%、華南30%、朝鮮38%と対照して日本人を中国人系、朝鮮人系というのと同じなのです。沖縄北39%、東京40%、アイヌ88%のY染色体D2型が中国・朝鮮で0%であることと、倭音倭語が中国語・朝鮮語に見られないこと、「主語-目的語-動詞(SOV)」言語構造が中国語の「主語―動詞-目的語(SOV)」言語構造とは異なることをきちんと分析すべきです。―縄文ノート「37 『神』についての考察」「41 日本語起源論と日本列島人起源縄文ノート」「43 DNA分析からの日本列島人起源論」参照

 アフリカで誕生した言語が一足飛びに東欧に飛び、「フランス語を含むヨーロッパの言語の大半は、今から 5000~6000 年前にユーラシア大陸黒海付近で話されていたインド=ヨーロッパ祖語までさかのぼることができる。インド=ヨーロッパ祖語において、名詞は男性/女性/中性の3つのカテゴリーに分類されていたと推定されているんだ。この3つのカテゴリーのうち、男性/女性は雌雄のある生物を示す名詞に用いられ、無生物名詞は中性のカテゴリーに登録されていたと考えられている」「後に言語が変化して枝分かれする過程で、中性のカテゴリーに割り当てられていた無生物の名詞の一部が、男性/女性名詞に振り分けられた」などとまことしやかに説明されていますが、もともと中性であった名詞の多くが文化・文明の辺境であった東欧ウクライナ・ロシア付近の草原のような文明のもとで女性名詞に変わったのか、という説明は何もできていません。

 辺境ヨーロッパと文化・文明先進地の西・南アジアを支配するために、その接点である東欧ウクライナ付近に架空の「アーリア民族」「アーリア民族文明」「インドヨーロッパ祖語」をでっち上げたのです。

 なお、今、ロシアはウクライナをロシア領と宣言して軍事支配を進めようとしていますが、そのうちに「アーリア民族=ロシア民族説」をでっち上げ、プーチン大統領習近平主席の「中国の夢=中華民族の偉大な復興」を真似し、「ロシアの夢=アーリア民族の偉大な復興」を言い出し始めそうです。ヒットラーのように「インドヨーロッパ語族」の盟主たらんとするかも知れません。

 世界の言語学者たちは、イギリス帝国、ドイツ帝国の野望に手を貸し、今度はロシアに手を貸し続けるのでしょうか?

 主語・目的語・動詞言語構造分布図に「アーリア民族」の位置を重ねた図を示しますが、民族言語固有の言語構造(語順)の違いからみて、「インドヨーロッパ語族」説など成立の余地などないことは明らかです。

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 「主語-目的語-動詞」言語、「主語―動詞-目的語」言語のどちらもがアフリカ熱帯雨林で女・子どものコミュニケーションから生まれ、別々に出アフリカを果たし、アフリカかその途中の西アジアで女性名詞と男性名詞を生み出し、世界に広まったのです。

<参考>

⑴ 縄文ノート37 『神』についての考察  200105

 ウィキペディアは「国語学者大野晋は、日本語の原型がドラヴィダ語族の言語の影響を大きく受けて形成されたとする説を唱えている。ただし、この説には系統論の立場に立つ言語学者からの批判も多く、この説を支持するドラヴィダ語研究者は少ない」としていますが、そもそも翻訳輸入の国語学者の「系統論」は支配民族言語の系統分析には役にたっても、タミル(ドラヴィダ)語のような被支配民族言語と日本語のような独立民族言語に比較には役に立ちません。日本語といっても倭音倭語を比較する必要があり、呉音漢語・漢音漢語の借用語で比較したのでは意味がないのと同じです。

 大野氏はタミル(ドラヴィダ)語と倭音倭語の比較において、支配言語の影響を受けやすい基本語や借用語ではなく、「希少性・伝承性」のある宗教用語や農業・食生活用語を比較しており、つまみ食いの「語呂合わせ」を行っているのではありません。次回、「縄文ノート38 『霊(ひ)』とタミル語pee(ピー)とタイのピー信仰」でも大野説の復権を図りたいと思います。

 

⑵ ブログ「ヒナフキンスサノオ大国主ノート」 倭語論16 「日本語」「倭語」「土器人(縄文人)語」 200224

さらに、この「倭語」について私は「土器(縄文時代)時代」1万年の「土器人(縄文人)語」にルーツがあると考えています。

                              「日本語」の形成過程

 

 

 日本は南方や北方、中国大陸、朝鮮半島から多様なDNAを持った人々が漂着・移住・避難してきたことはDNAの分析などから明らかですが、フィリピンや台湾のような多言語・多文化コミュニティにはなっていません。アイヌを除いて、方言・文化の差はあっても、沖縄から北海道まで同じ言語・文化のコミュニティであると言っていいと思います。

 

同じ島国でありながら異なる「言語・文化コミュニティ」の国の成立

多DNA・多言語文化コミュニティ

(フィリピン・台湾)

多DNA・同一言語文化コミュニティ

(日本:アイヌを除く)

 

 

 

 

 ほとんどの単語に倭音・呉音・漢音の発音があるにも関わらず、中国語の「主語―動詞―目的語」の言語構造を受け入れず、「主語―目的語―動詞」の言語構造を維持しています。朝鮮語とは同じ「主目動言語」ですが、倭音・呉音・漢音・朝鮮音という単語は見当たらず、数詞や人体語などの基本語が一致していません。弥生人(中国人・朝鮮人)征服説は、倭語―日本語からは成立する余地はありません。

 

⑶ 言語構造からみた日本民族の起源―「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」補論 180424 ― 2018年夏『季刊 日本主義』42号掲載

9.「主語―述語―目的語」族の未来

以上、「主・目・述族」が、中央アジアから「海の道」「草原の道」「マンモスの道」の3つに分かれて日本列島に何次もにわたってたどり着き、南と北から劇的に再会し、遅れて朝鮮半島からの人々が合流したという説を紹介してきました。この「主・目・述族」は、長江(揚子江)流域や華南・インドシナなどから「主・述・目族」の人々を受け入れながら融合し、「言語・文化共同体」としての日本民族の独自性と共同性を創り上げてきたのです。

この「主・目・述語」の3つの部族のうち、活発に交流・交易・共住(妻問い婚)を行い、3部族を融合して豊かな1万年の縄文文化を作り上げたのは、黒潮対馬暖流の流れと舟の文化・技術からみて、南がらの「海人(あま)族」です。

 では、この「頭(主語)―胴体(目的語)―足(述語)」の言語構造と、「頭(主語)―足(述語)―胴体(目的語)」の言語構造は、どのような文化の違いを示しているのでしょうか。

「私は東へ行く」「私は君が好きだ」「誰が、いつ・どこで・何を・なんのために、どうする」と「私は行く。東へ」「私は好きだ。君を」「誰が、どうする、いつ・どこで・何を・なんのために」では、前者が「目的重視・相手尊重・方法手段合意重視・慎重行動」であるのに対し、後者は「行動重視・自分中心・方法手段合意軽視・迅速行動」の違いがあるではないでしょうか。前者は「コミュニケーション・共同性重視」、後者は「コミュニケーション軽視・自分重視」といえます、

日本民族は、好奇心にあふれ、探検心・冒険心に富み、よく目標・方法・手段・合意形成を考え、冷静・慎重な行動力を持ち、他部族を尊重しながら交流・交易・共住を行い、受け入れてきました。この石器・土器時代からの3万年の海洋交易民の歴史・文化こそ、私たちはこれからの民族の指針としなければならないと考えます。目的・目標をしっかりと把握し、平和な交流・交易を行い、健康長寿の豊かな炊き食文化を継承し、豊かで独創的・芸術的な文化を育くみ、世代間の教育・知識伝承をきちんと行い、死ねば誰もが神となる霊(ひ)信仰という、世界の中で他にないこの独自の海人(あま)民族の歴史を受け継いで未来を切り開くべきと考えます。

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/