ヒナフキンの縄文ノート

スサノオ・大国主建国論から遡り、縄文人の社会、産業・生活・文化・宗教などの解明を目指します。

縄文ノート87 人類進化図の5つの間違い

 「縄文ノート84 戦争文明か和平文明か」において、私は人類の「肉食起源説」に対して「糖質魚介食起源説」に達し、さらにイモや魚介食の採取が熱帯雨林でサルのメス・子どもによってもっぱら行われたと考え、「オス主導進化説」から「メス・子ザル主導進化説」へと進みました。

 さらに「縄文ノート85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか」では、熱帯雨林の小川や沼でのメス・子ザルが雨季になると首だけ水面に出して背伸びして魚介類などを足で採取することにより二足歩行が始まり、棒でのイモ掘りや土中のイモムシの採取が棒の使用と腕の発達を促し、さらに落雷による火事で焦げたイモ・穀類食を覚え、群れを追われたオスがセックスと子育て支援に加わって家族ができたことを明らかにしました。

 オスのサバンナでの肉食獣と競合した腐肉あさりや草食動物の追跡猟ができるようなったのは、前提として二足歩行と棒(槍)の使用ができて肉食獣からの安全確保ができるようになってからであり、それが可能となったのはいざとなれば樹上に逃げることのできる安全な熱帯雨林でのサルのメスと子の長期間をかけての採取活動による進歩があったからです。

 以上のような経過から、出回っている人類進化図には5つの問題点があり、修正が必要であることを明らかにしたいと思います。

 

1 サルからの直線的進化か、分岐型進化か?

 サルから類人猿、現生人類への進歩を直線的に描いた進化図の誤りは、すでにいくつものブログやツイッターで指摘されています。― https://twitter.com/illcommonz/status/1329636550523588608https://note.com/sekaishi/n/na5f2b2879306

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 人類はサルからいくつも分岐した図1・2の下段

 私も現役時代、会社(株式会社 都市構造研究所)の社会貢献のボランティア活動として子どもを対象にした「木登り」のイベントを各地で行いましたが、「人はなぜ木に登りたいか」という説明では、土の穴の中にいたネズミのような哺乳類から木に登るサルとなり、さらに地上に降りてヒトになったという記憶がみんなに残っているんだ、とわかりやすく直線的進化で説明していましたが、図3のような分岐型の進化として正確に説明すべきでした。  

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 サルからだと、ゴリラやチンパンジーにはならない別の進化をとげたのです。

 2004年には「動物進化を追体験する子どもの遊び」(日本子ども学会チャイルド・サイエンス 懸賞エッセイの奨励賞)を書きましたが、幼児の頃からの孫のいろんな遊びを観察し、なぜ子供は幼児の頃から水遊びや木登りが大好きなのか考えていると、表1のように子どもの遊びが「サカナ型」「カエル型」「トカゲ型」「ネズミ型」「サル型」「ヒト型」に分類でき、そこから「子どもの遊びは動物進化を追体験している」と考えるようになりました。

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 このような子ども時代の遊びこそが人類だけでなくすべての動物の進化を促したのであり、それは魚類、両生類、爬虫類、哺乳類へと受け継がれ、ヒトのDNAに全て本能として残したと考えられます。

  うっかり目を離すと歩き始めたばかりの孫が川の中に入ってあわてたことが何度かあり、「いないいないばあ」が大好きな乳幼児、穴掘りや囲いの外に穴から石を入れて出すことをいつまでも止めない遊び、滑り台を腹から滑り降りる遊び、ジャングルジムやブランコでいつまでも遊んでいる子どもなど、両生類や爬虫類、穴倉居住のネズミ、樹上のサルなどのDNAが子どもの中に残っているとしか考えられませんでした。

 

2 オス主導進化か、メス・子ザル主導進化か?

 「人類進化図」で検索すると、世界各国ではいろんな進化図が書かれていますが、ほぼすべてがオスの進化図であり、「メスと子ザルが進化を主導した」という仮説はまったく検討されていません。

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 最初はネットで調べ、次にチンパンジーボノボ(ピグミーチンパンジー、現地名ビーリャ)研究の黒田末寿氏らや、ゴリラ研究の山極寿一氏の本にざっと目を通しましたが、類人猿や狩猟民族の食生活、採取・漁撈・狩猟について詳しく観察・記録されているものの、熱帯雨林でのサルの母子主導の「糖質魚介食進化説」「二足歩行説」「家族形成説」などからの「母系制社会説」については、思考の外に置いています。オスが石器武器で二本足で狩りをしてメスに肉を手で運んで贈って家族ができ、タンパク質をとって頭脳が大きくなった、という狩猟・肉食進化説しか頭にないようです。

 黒田末寿氏は『人類の起源と進化』において、ボノボに見られる「メスと息子、メス同士の強い絆」や「メスの集合性、オスの分散性」「メス同士、母から子への食物分配」「母親と息子が母系家族的集団をつくる」「集団内の母・息子集団と集団間の近隣関係に見られる重層構造化の萌芽」「乱婚傾向が強く、メスに無排卵発情が多く発情メスの比率が高い(ニセ発情:古市剛史)」「性皮の膨張」などと述べながら、「ヒト社会の場合、全体的には父系が優勢といえよう。これらのことから、家族の出現の時期はともかく、人類祖先の社会集団は父系的傾向が強かったと仮定してよい」とボノボ観察・分析とは正反対の結論を導いており、その根拠である「父系が優勢」「父系的傾向が強かった」というのは単なる推測、仮定にすぎないのです。

 「ボノボの生態からヒト誕生が母系制か父系制かを推定する」という方法論ではなく、「人間社会を父系制と仮定してボノボをみる」という逆立ちした男性優位思想の偏向が見られます。 

 また、黒田氏は「採食技術としての道具使用は雌の方が上手でかつ長時間行う。これらは採集滑動に相応し、採集仮説で強調される女による採集活動での道具使用の発達の根拠はここにある」と述べ、道具使用を通した手の発達がメス主導であったことを認めながら、人類の誕生がメス・子ザル主導であった可能性を検討しておらず、フィールドワークで貴重な成果を残しているものの、残念な非科学的結論に陥っていると言わざるをえません。

 それは後輩の山極寿一氏のゴリラ研究も同じであり、京大のサル・類人猿研究のオス中心主義の伝統のようであり、女性研究者主導にならないと京大のサル・類人猿研究はまともな科学にはならないのではないでしょうか。

 

3 武器進化か、生命・生活進化か?

 男が人類進化をもたらしたという進化図の第3の誤りは、図1・2・4のように、男が石器の穂先の槍を持った絵とし、狩りと戦争が人類を進化させたという仮説を振りまいていることにあります。女・子どもが穴掘り棒や石器採集具・石包丁、穀類食のための石臼などの手の使用と道具製作を行うことにより手の機能を高め、コミュニケーション・学習により知能を発達させてきたことなど、想定外なのです。

 私は「ドキドキバカ史観」などと悪口をたれながら「縄文―弥生―古墳」時代区分を批判し、生産生活用具(農耕・採集・狩猟用具と調理用具の土器鍋)を指標とする「石器―土器―鉄器」時代区分とを提案してきましたが、通説は狩猟・殺人の武器による「石器―青銅器―鉄器」時代区分のままです。

 「縄文ノート70 縄文人のアフリカの2つのふるさと」「縄文ノート85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか」において、私は2015年9月18日のナショナルジオグラフィックのニュースの『ヒトはなぜ人間に進化した? 12の仮説とその変遷』を紹介しましたが、それは「1.道具を作る」「2.殺し屋(常習的に殺りくをする攻撃性)」「3.食料を分かち合う」「4.裸で泳ぐ」「5.物を投げる」「6.狩る」「7.食べ物とセックスを取引する」「8.肉を(調理して)食べる」「9.炭水化物を(調理して)食べる」「10.二足歩行をする」「11.適応する」「12.団結し、征服する」であり、白人中心主義の「肉食・闘争・戦争文明史観」の進化説でした。

 ―「https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/091700262/?P=1」参照

 この「肉食・闘争・戦争文明史観」には次のような問題点があります。

 

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 日本の類人猿研究・考古学・歴史学・人類学などでもこの思想は根強く、人類進化図を通して子どもたちへの刷り込みが今も行われているのです。黒田末寿氏らのボノボ研究や山極寿一氏らのゴリラ研究はその転換を果たすことが期待されましたが、オス主導進化論の枠組みを超えていないのが残念です。

 なお「武器進化論」をとなえるなら、棍棒→槍→弓矢→鉄砲・大砲・毒ガス→爆撃機・ミサイル→原爆→AI兵器の順に男に持たせるべきであり、最後のゴールのビジネスマンはパソコンでミサイル・AI兵器で殺戮を行い、AIで人民を監視・管理するイラストにすべきでしょう。

 

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 図5は少しましで、鉄器の農耕具や削岩機、パソコンを登場させ、農耕開始、工業化、情報化という人類の進歩を表現していますが、工業化は鉄砲・大砲・毒ガス・爆撃機・ミサイル・原爆を生み出し、情報化は精密誘導兵器やAI兵器を生み出したことを描くべきでしょう。

 この「肉食・闘争・戦争文明史観」に対して、「生命・生活中心文明史観」こそが人類進化を説明できると考えます。

 

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4 西欧文明史観か、非西欧文明史観か?

 図6は「らもん一人旅」のブログから引用した人類進化のパロディ図ですが、この差別的な図を笑っている場合ではありません。

 

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 「棒→槍→ノートパソコン」を持ったヨーロッパ人を文明人とし、機関銃を持ったロシア人、超デブになるアメリカ人、ロボットになる日本人、進化を止めて銃で内戦を繰り広げているアフリカ人、全体主義の中国人、ヨガのインド人をて嘲笑しているのですが、すでに述べてきたようにここには大きな嘘があります。

 ギリシア・ローマからのヨーロッパ・アメリカ文明こそ、「人殺し・略奪」を神の命令として実行する「一神教」を発明し、侵略と奴隷制度を全世界に広げ、戦争を工業化して大量殺りくを行い、さらにデジタル監視社会化・AIロボット兵器による自動殺人時代へと進めてきたのです。

 人類退化・滅亡のパロディ図として、ヨーロッパ・ロシア・アメリカ・中国人の手には、ロケット・原爆、監視カメラ・AIロボット兵器を持たせるべきでしょう。武器とともに「一神教一党独裁原理主義者」の頭には聖書・コーラン・毛語録などを載せるべきでしょう。

 そうでなければ、ギリシアから始まる西欧文明の「武器進化文明史観」を改め、「命(霊=DNA継承)」と「生活」を基準とした「生命・生活文明史観」によるイラストへの置き換えが求められます。それは、「生類共同体文明史観」への転換です。

 

4 ゴリラ型かチンパンジー型かボノボ型か

 以上、「猿からの直線的進化図」「オスの人類進化図」「武器による人類進化図」「西欧中心主義の人類進化図」について批判してきましたが、最後に気になる点として、サルからヒトへの人類進化図が4種類あることです

 図7は黒田末寿氏の『人類の起源と進化』からですが、私は1970年代に元京大探検隊の伊藤君からボノボ(ピグミーチンパンジー)の話を聞き、この図のようにボノボがもっともヒトに近い類人猿と思っていました。

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 ところが、ネットで検索すると、札幌市丸山動物園の図8と京大霊長類研究所の図9、さらに京大理学部生物科学の中川尚史教授の図10があり、さらに「縄文ノート85 『二足歩行』を始めたのはオスかメス・子ザルか」で紹介した京大理学部生物科学の森本直記助教・中務真人教授の図11があり、微妙に食い違っており専門家の間で整理して欲しいところです。

       

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 まず図7と図8の違いですが、オランウータンからゴリラとヒト・チンパンジーボノボの先祖が分かれ、さらにヒトとチンパンジーボノボが分かれたという点では同じですが、図7がヒトに近い位置にボノボを置いているのに対し、図8はチンパンジーをヒトの近くに置いています。

 さらに京大霊長類研究所の図9は山極寿一氏と同じように、ゴリラとボノボの間にヒトを置き、中川尚史氏の図10や森本・中務氏の図11はゴリラ―チンパンジー―ヒトの順(ボノボは分析していない)にしているのです。

 図7・10・11のヒト派に対し、ゴリラ派の京大霊長類研究所と山極寿一氏、チンパンジー派の札幌市丸山動物園が独自の道を歩んでいるようです。

 絶対神信仰を持つヒトを頂点に置き、信仰心を持たない動物や他宗教のヒトの支配・殺害・強盗を正当化する一神教ユダヤ・キリスト・イスラム教に反対し、ゴリラやチンパンジー、サルの保護を訴え、「ゴリラ・チンパンジー・ヒト兄弟」「生類みな兄弟」とインパクトを与えて主張したい気持ちは解りますが、生態学的研究とDNA分析からみれば黒田・中川・森本・中務氏の図が正しいと私は考えます。

 ただ「動物進化を追体験する子どもの遊び」で書いたように、私たちは動物進化の全過程を本能の中に持っており、全ての動物の行動からヒトが受け継いだものと、ヒトが独自に獲得するとともに失ったものを整理し、「生類」として生きながら、大量虐殺・絶滅や家畜化・奴隷制度など「生類」から外れた道を明らかにし、考え直す必要があると考えます。

 「サルに学ぶ」「ゴリラに学ぶ」「チンパンジーに学ぶ」と「ヒトの歴史に学ぶ」だけでなく、全生類の知恵を未来に向けて活かすべき時と考えます。自らの狭い思想・価値観を類人猿に投影して主張するようなレベルから先に進むべきと考えます。

 

5 まとめ

  次回はナシジオ(ナショナルジオグラフィック)編集部の『ヒト進化12仮説』批判として、これまで「縄文ノート48 縄文からの『日本列島文明論』」「縄文ノート50 縄文6本・8本巨木柱建築から上古出雲大社へ」などで述べてきたゴードン・チャイルドや日本の哲学者・人類学者・経済学者・環境学者などの文明論と対比させて検討したいと思います。

 

□参考□

<本>

 ・『スサノオ大国主の日国(ひなこく)―霊(ひ)の国の古代史―』(日向勤ペンネーム)

 ・『邪馬台国探偵団~卑弥呼の墓を掘ろう~』(アマゾンキンドル本)

<雑誌掲載文>

 2017冬「ヒョウタンが教える古代アジア”海洋民族像”」(『季刊 日本主義』40号)

 2018夏「言語構造から見た日本民族の起源」(『季刊 日本主義』42号)

 2018冬「海洋交易の民として東アジアに向き合う」(『季刊日本主義』44号)

 2019春「漂流日本」から「汎日本主義」へ(『季刊 日本主義』45号)

<ブログ>

  ヒナフキンスサノオ大国主ノート https://blog.goo.ne.jp/konanhina

  ヒナフキンの縄文ノート https://hinafkin.hatenablog.com/

  帆人の古代史メモ    http://blog.livedoor.jp/hohito/

  邪馬台国探偵団         http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/

  霊(ひ)の国の古事記論 http://hinakoku.blog100.fc2.com/